2016年5月4日水曜日

リッツ缶ロースターの使い方~いろいろ工夫してみる編

そんなわけで、とりあえず編に続いて、現在、実際にぼくがこのロースターをどう使っているかについて。
とりあえず編では、リッツ缶ロースターにコーヒーの生豆(これ「なままめ」と読む)を入れて火にかければ15分ぐらいでコーヒーになる、と書いた。その通りで、このロースターなら特に神経を使わなくてもまずくて飲めないなんてことは絶対に無い。そうは言っても、やっぱりノウハウみたいなものがある。また、コーヒー焙煎のプロセスの各段階で、コーヒー豆がどう変化しているのかといった焙煎の基本的な知識があると、応用も効くというもの。ただし、ぼくは焙煎の専門家ではないので、特別に専門的、あるいはマニアックな内容ではない。シェフでも板前でもない素人がレシピサイトに投稿している「鶏胸肉をジューシーに仕上げる方法」だとか「サクサクのクッキーを焼くコツ」みたいな内容だと思っていただきたい。


チャフをどうするか

現実問題として、とりあえず編で書いた通りに焙煎すると、生豆を覆っている薄皮(チャフ)が舞い飛んでガスレンジの回りがチャフだらけになってしまう。特にナチュラルと呼ばれる方法で処理されたブラジルやモカなどの豆はチャフが多く、焙煎後の後始末がたいへん。
また、深煎りにする場合はチャフが焦げて煙臭さの原因にもなる。プロが使う高価な焙煎機は、焙煎シリンダー内の空気を排気するようになっていて、空気とともにチャフも排出されるのだが、空き缶の場合は強制的な排気の仕組みがないため、焙煎の途中で剥がれたチャフが最後まで残ってしまうからだ。また、家庭での焙煎でも手網を使う場合はチャフの煙がこもらないが、空き缶の焙煎では煙臭さがこもってしまうようだ。
もちろん浅煎りや中煎りぐらいならチャフが焦げて煙臭くなるというようなことはないが、冷却時に飛び散ったりするので始末が悪い。

焙煎の途中でブロアで缶の中のチャフを吹き飛ばしたり、掃除機で吸ってみたりといろいろ試してみたけれど結局、焙煎する前に生豆を「研ぐ」ことにしている。生豆を洗っても、多少の細かいチャフは残るが、始末に困るほどではなくなる。
石鹸ネットに入れて洗う!
米を研ぐように、生豆を水で研ぐというと、「水を吸って豆がふやけてしまうのではないか」とちょっと気になるかもしれない。だが「ほとんど影響はない」と言える。
もっとも、米を研ぐように水を入れてがしゃがしゃやるだけでは、なかなかチャフは取れてくれない。ぼくのやり方は、100円ショップ(100円ショップにはコーヒー焙煎に便利な雑貨が揃ってる!)で売っている石鹸ネットに1回分の生豆を入れて、水をかけながらがしゃがしゃと豆をこすりあわせる。こすりあわせる時間は20秒~30秒程度でいい。チャフは簡単に水を吸ってふやけて柔らかくなり、こすりあわせることで豆から剥がれ落ちてくれる。後は水を張ったボールで余計なチャフを洗い流し、金網で水気を切り、タオルで水分をざっと吸い取らせる。
これを空き缶に投入して焙煎する、という次第。
ただし、生豆は焙煎の直前に洗うこと。ちゃんと乾かせばいいのかもしれないけれど、不精してまとめて洗って置いておくと、生豆が水分を吸ってふやけてしまうようだ。
洗った豆は、タオルで拭いても表面には水分が残った状態なので、乾いた状態の生豆よりも焙煎の時間は1分ぐらい長くなるが、コーヒーの味に影響するような変化はないと思う。もちろん、深煎りにした場合にチャフが燃えることによるいやな焦げ臭さがつかないというメリットはある。そして、それ以上に、焙煎中にチャフが飛び散らず、冷却時に舞い上がらないので、焙煎後の掃除が楽になるというのが最大のメリットである。

もうひとつの方法は、カセットコンロやアウトドア用コンロを使って屋外で焙煎する方法。つまりチャフをそのへんに散らかしてもかまわん、という場所で焙煎する。もちろん、夏は暑いし、冬は寒い。飛んだチャフがお隣の洗濯物にへばりついたら文句を言われるかもしれないといったあたりも考慮しなければならないかもしれないが。

冷却はどうするか

火から下ろしたロースターの中の熱い豆は、できるだけ短時間で冷やさなければいけない。
熱いままだと火から下ろしても焙煎が進んでしまうし、熱い状態で放置しておくとコーヒーの香味も抜けてしまうらしい(書いて気が付いたけど、熱いまま放置したことはないので本当に香味が抜けるかどうかはわからない)。
サーキュレーターで冷却
とにかく、火から下ろしたらできるだけ短時間で十分に冷やす。
浅くて広いザルなどにあけて扇風機やブロワー、あるいはうちわなどで冷風を当てる。

ぼくはサーキュレーターに100円ショップで買ってきたプラスチックのゴミ箱と園芸用のふるいで簡単な冷却器のようなものを作って煎り上げた豆を冷やすために使っている。少量のコーヒー用冷却器なんてどこにも売っていないので自分で作るしかないが、工作が好きな人なら適当な箱とファンで専用の冷却器を作ってもいいと思う。個人的にはサーキュレーターで特に不都合はないので、わざわざ冷却器を作ろうとは思わないけれど。

焙煎プロセスの概要

さて、アルミ箔容器で作った蓋の使い方を説明しなければいけないんだけど、その前に、コーヒーの焙煎という作業について説明しておきたい。
コーヒーの焙煎は、要するに茶色くなるまで生豆を加熱するだけの作業なのだが、生豆が茶色いコーヒーになるまでには、豆の中でメイラード反応やカラメル化をはじめ、極めて複雑な物理的・科学的な反応が発生しているんだそうな。単に焦がしているだけではなく、豆の中の化学物質に熱を加えることによってコーヒーの味のもとになる化学物質が作られるわけだ。
コーヒーの焙煎技術というのは、豆に加えられる熱や加熱の時間をコントロールすることで、豆の中で発生する多くの反応の中で、好ましい香味を出す反応を促進し、好ましくない反応を抑制して、できるだけ多くのおいしい成分を作り、まずい成分ができないようにする技術だということができる。
アルミの蓋も、焙煎のプロセスにおけるそうした複雑な反応を制御するための道具なので、焙煎プロセスの概要を知れば、上手に蓋を使えるようになるはず。

というわけで、コーヒーの焙煎のプロセスだが、だいたい次のような段階があると言われている。
  • 水抜き: 冷たい状態の生豆を加熱して生豆に含まれている水分を蒸発させる段階。数分で緑色の豆が白っぽくなり、生臭いようなにおいがして、そのうちうっすらと黄色く色がつき始める。この段階ではムラなく均等に水分を飛ばすようにする。
  • 水抜きから1ハゼまで: 豆の温度を上げる段階。水分がほぼ抜けてきたらどんどん豆に色がついてきて、香ばしいにおいがしてくる。この段階では生豆の成分が反応してコーヒーのおいしさの「もと」になる化合物ができ始める。
  • 1ハゼ: 加熱が進むと豆の中でガス(炭酸ガス?)が発生し、豆が膨らんでハゼる。この段階から、コーヒー特有の味や香りの成分を作る反応が始まる。1ハゼが始まったあたりをシナモンローストと呼び、酸味が強く、苦味やコク、香りは薄い。飲めなくはないが、はっきり言っておいしくない。
  • 1ハゼ終了から焙煎終了まで: この段階では連続的にコーヒーの味を決める成分が生成されたり、消滅したりする。コーヒーの味を決める重要な段階だ。1ハゼのあたりから煙が出てきてあたりはコーヒーの香ばしいにおいでいっぱいになる。1ハゼが終わったあたりで、すでに生豆は「コーヒー豆」になっているのだが、ここからの焙煎でコーヒーの酸味、苦味、甘み、コク、香りなどが変わってくる。おおざっぱな傾向は、1ハゼが終了した後は酸味が強く、豆の色が濃くなるにつれて酸味が消え、苦味が強くなる。

蓋の使い方

というわけで蓋の使い方なんだが…正直なところ、蓋の有無はそれほど大きな影響はない。
穴の大きさが異なる蓋
この蓋は、缶の底面に開けた穴から取り込まれる熱気の量をコントロールする目的で作ったものの、プロの焙煎機のような強制的な排気の仕組みがないため、コントロールできる熱気の範囲はそれほど大きくない。むしろ缶内部の空気の温度を均一にする作用の方が大きいようだ。つまり大きく開いた缶の上部から比較的低い温度の空気が入りこむことを防ぐ。
このほか、蓋の副次的な効果としては、ガンガン缶を振っても豆が飛び出さない。ちなみに、蓋の穴が小さいと、缶の中が見えなくなって、焙煎の進行を見るためにいちいち蓋をはずさなければならなくなる。

これまで使っていた底面の穴が少ないロースターでは、最初の1分ぐらい、つまり水洗いした生豆の表面についた水分がなくなるぐらいまでは蓋をせずに強火で加熱し、その後で蓋をする。しばらくその状態で加熱を続け、そろそろ1ハゼというタイミングで蓋を取り外して、そのまま最後まで蓋をせずに焙煎する、というパターンで使っていた。基本的には均等な水抜きを助け、焙煎のムラが少なくなる。
ただ前に作り方を書いた新しいロースターは、7ミリの穴が85個と、かなり開口部の割合が大きいので、缶の中に入ってくる熱気の量も多くなっている。蓋の有無による影響も小さくなっているような気がする。この新しいロースターは、まだ使い始めたばかりなので、実は自分でもどういう使い方をすればいいんだか、よくわかっていないのだが、まあ、蓋を使うとすれば大筋としては上記のパターンでいいはず。現在のところ、大きな穴を開けた蓋と、小さな穴の蓋の二種類を使って試行錯誤しているところなのだが、手間をかけた割にはあまり味に変化はないかなあ…という気もしないでもない。めんどくさければ、前に説明したように、蓋を使わず全開で煎り上げてしまってもいいと思う。
なお、1ハゼの後で煙が上がっている場合は、蓋をつけると煙臭くなるようだ。スモーキーなフレーバー、なんて言えばカッコいいけど、要するにまずいコーヒーになる。1ハゼ後は蓋は取ってしまったほうがいい。

温度の調節

いくらコントロールの仕組みがない空き缶ロースターでも、火の強さは調節できるし、調節してやらなければいけない。
普通の家庭用レンジやカセットコンロなら、1ハゼまでは強火でいい。水洗いした生豆の水気を飛ばすまではできるだけ炎に近付けて加熱し、水気がなくなったら強火のまま少し炎から離す。1ハゼからはさらに炎からの距離を遠くする。ガスレンジのつまみで火力を絞ることもできるが、炎からの距離で調節したほうが再現性はいいと思う。
ぼくの場合は、1ハゼまで10分前後、1ハゼが1分少々続いて、1ハゼが終わってから2ハゼまで2分から3分程度を目安にしているが、使っているガスレンジの火力や缶の底に開けた穴の大きさや数、焙煎する生豆の量、生豆の種類、焙煎度などによって、最適な火力は変わってくる。どんな焙煎でも、このロースターならまずくて飲めないという失敗はないので、あれこれ試してみてほしい。(以前、手網のロースターを使っていた時には、失敗するとひどい味のコーヒーになって「ゲー、まずい…」とかつぶやきながらも、もったいないので飲んでたなんてことがあった。)

なお、火力の調節がめんどくさければ、とりあえず強火で最後まで煎り上げてもかまわない。それでも十分、おいしいコーヒーになる。でも、それではあまりにも単純作業になってしまって面白くない。どうせ自家焙煎をやるんだったら、何か芸のひとつもやってみたくなるというものだ。マニアっぽく「ケニアの豆だからね、華やかな柑橘系の香りを強調するように焙煎したんだ」なんてセリフとともにコーヒーを出したらカッコいいんじゃないかと思ったりしない?
そんなマニアックな焙煎が実際にできるかどうかは別として、 最初に火力をやや絞って水抜きの時間を長くしてみたり、水抜きから1ハゼまでの時間、1ハゼの後の時間を長くしたり短くしたりしてみると、うまくいくと「おっ、これはすごいコーヒーだ」と思うようなコーヒーができたりもする。
ただしなにしろ空き缶ロースターなので、無数の焙煎のパラメーターを十分コントロールすることができない。すごいコーヒーができた時と同じように焙煎しても、同じようにできるとは限らないのだ。そのへん、数百円のロースターでは逆立ちしたって数百万のプロ用焙煎機にかなうわけがない、という常識的な事実を思い出してほしい。
とにかくおいしいコーヒーが飲みたいから自分で焙煎するわけだ。だから、あまり精密な火力の調整だの、排気の調整だのというめんどくさいことは考えず、新鮮なコーヒーのおいしさを楽しむことを第一に、その上で自分なりにいろいろ工夫することを楽しむ方が健康だと思う。

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