2013年3月16日土曜日

ISD条項に関する韓国情報活動家の記事 4

韓国の情報活動家が、Corporate Europe Observatoryによる「不当なことで利益を得る-ローファーム、仲裁者、金融業者が投資仲裁ブームをあおりたてる方法(Profiting from injustice. How law firms, arbitrators and financiers are fueling an investment arbitration boom)」という報告書の内容を韓国語に翻訳して「投資仲裁産業」の主な行為者としてローファーム(仲裁専門弁護士)、仲裁者、金融資本(第三者ファンド)が国際投資体制をいかに維持し、拡大させるかを4編に分けて掲載した記事の日本語訳。原文とは若干違う部分もあり、重訳なので翻訳時のミスもあるかもしれません。報告書の1編2編3編の記事、また必要なら原文もご覧ください。

不当なことで利益を得る(4)

投機金融資本にとってのISDとは?

Byクォン・ミラン/情報共有連帯IPLeft/ 2013年3月11日、10:49 AM

賭博場の掛け金を掛ける者、第三者ファンド

投資仲裁システムは、ますます投機性金融世界と統合されている。第1編で述べたように、国際投資仲裁は政府と投資家ともに高額な費用を要求する。最近はその費用を第三者ファンドから調達する現象が増えている。

第三者ファンド(third party funding)は、ローファームや訴訟の当事者が訴訟ファンド会社から訴訟費用を用意する過程やメカニズムをいう。つまり第三者ファンドは訴訟費用の提供者だ。一般に、第三者ファンドが訴訟の費用を提供した後、訴訟当事者が再判決と損害賠償金を受ければその損害賠償金の一定の割合を得て、裁判で負ければ何も受け取れない。つまり訴訟で負ければ第三者ファンドは何も受け取れずに投資した金を失う。第三者ファンドは、本質的に賭けだ。仲裁過程の費用を返してもらえる保険契約とは異なる。

第三者ファンドはよく知られていないが、Burford Capital(米国)、Juridica(英国)、Omni Bridgeway(オランダ)といった会社が、国際投資仲裁で指定席を得つつある。銀行、ヘッジファンド、保険会社も国際的な紛争に投資をする。請求人と第三者ファンドの間で、互いにショッピングができるように仲介するブローカーと電子市場がますます大きくなっている。

国際投資仲裁で第三者ファンドが急速に増加した最も明白な理由は高額な費用だ。そのために投資家は仲裁申請を躊躇し、それほどの金を持っていないこともあり、長い間、高い費用を払い続けると資産が使えないこともある。

また第三者ファンドが最近増加しているのは、国際的な経済危機にも起因する。投資家は相変らず経済危機の効果を体感し、仲裁過程であまり危険な投資をしないという。二番目の理由は仲裁の結果の不確実性だ。投資家は訴訟で負ける危険を第三者ファンドに移転し、その危険の管理を転嫁することを望む。

最後に、国際投資仲裁の増加と主な仲裁判定の公開により、可能な結果をさらに簡単に予測できるようになったため、若干、不明確性が減少している。

こう喩えるとわかりやすいだろう。掛け金がなければ博打はできない。その上、経済事情があまり良くなければなおさらだ。しかし誰かが掛金をくれる。博打で金が取れば掛け金をくれた人に少し払い戻せばよく、掛け金をすべて失っても返さなくても良い。だが、掛け金を賭けた人にとっても悪くないのは、これまでの傾向を見れば、その賭博場は自分が金を出してやったギャンブラーに有利なイカサマをする博打だったということだ。

国際金融危機で、むしろ常勝疾走

2008年、ウォールストリートのサブプライムローン事態の時に第三者ファンドはむしろ急浮上した。ローファーム、Patton Boggsのパートナー弁護士で第三者ファンド会社のJuridicaとBurfordのコンサルタントもしているJames Tyrrelは、不況の中で主張した。「適当なところを探している多くの金がある」。それで、世界が無謀な出資と信用不渡り、スワップの超過で揺れ動いている間、第三者ファンドは賭けを張る新しい現金流入先を得た。

2007年、Juridicaはロンドン証券取引所を通じ、初期株式公募に1億2千万ドル(8千万ユーロ)を集め、2008年末に国際的な不況が最高潮になった時、1億1600万ドル(7440万ユーロ)を追加で集めた。アイオワ大学のMaya Steinitzは、第三者ファンドの拡張は「ファンドと弁護士が弁護士協会の懲戒範囲の外で活発に行えるように、専門的な規制が実質的になかったため」と評価した。実際に第三者ファンドは「法的荒野(legal no-mans land)」と呼ばれた。

第三者ファンドはどれほどの金を稼ぐのだろうか? 第三者ファンドが受け取る分け前を計算する方法には、初期投資金に何倍か掛け算をする方法もあり、最終賠償金の一定比率を受け取る方法もある。その割合は15%から50%まで多様だ。 最後に、上の2種類の方法を混合する方法がある。最終判決前に合意した場合も第三者ファンドは似た方式で収益を得る。

第三者ファンドの収益は、衝撃的な割合で増加した。Burfordの年次報告書(2011)によれば、2011年度の利益は1590万ドルで、前年比965%増加した。 Burfordが金を出した訴訟のうち9件が2011年に終わったが、期待純益は最低3200万ドルだという。この9件の訴訟に3500万ドルを払ったので、掛け金100円あたり、91円を取ったわけだ。

Burfordは固定投資金として3億ドルを保有しており、1件の投資当りの平均投入額は800万ドルだ。2009年に創立して以来、2011年末までに2億8200万ドルを投資した。Juridicaの年次報告書(2011)によれば、2011年度の利益は1290万ドルで、前年比578%増加した。Juridicaは固定投資金として2億ドルを保有しており、1件の投資当り平均750万ドルを投入する。

何を売るのか?

第三者ファンドがどんな訴訟に金を出すのかを決める方法論については、よくわからない。第三者ファンドの慣行についても明確に知られていない。訴訟請求人と第三者ファンドの間で、どのような内容で第三者ファンド協定を結ぶのかもよくわからない。

だが明らかなことは、第三者ファンドは利益を極大化するために、絶えず新しい商品を開発していることだ。

第三者ファンドは投資家(企業)だけでなく、政府を含む被告のための商品も開発している。Fulbrook Management会長のSelvyn Siedelは、「しばしば、われわれは訴訟をあおっていると非難される。しかし現在、われわれは紛争の双方で働いていると言える」と主張する。

国際投資仲裁件ではないが、シェブロンとエクアドルの訴訟を例にあげよう。 1964年〜1992年にテキサコ(シェブロンが買収)がエクアドルで原油の採掘で水を汚染させ、ガン、障害児出生、小児白血病増加が現れるなど、先住民の健康が悪化した。


シェブロンに抗議する市民

シェブロンに抗議する先住民:www.chevroninecuador.com/201006_01_archive.htmlより

http://okosmos.blogspot.kr/2011/02/ecuadorian-judge-hits-chevron-with-86bn.htmlより

先住民がシェブロンを相手としてエクアドル裁判所に損害賠償請求をした。 Burfordは、2010年11月にエクアドル先住民の代わりに、訴訟資金として400万ドルを出し、1500万ドルまで投資することにした。Burfordのファンド協定によれば、Burfordが1500万ドルを出し、原告が10億ドルの賠償を受け取れば、Burfordは5500万ドルを受け取り、原告が20億ドルの賠償を受け取れば2倍の1億1100万ドルを受け取ることにした。これで終わりではない。原告が10億ドル未満(最低6950万ドルまで)の賠償判決を受けた場合、Burfordは同じように5500万ドルを受け取ることにした。つまり6950万ドルの賠償判決があれば、Burfordは5500万ドルを受ける。

これは賠償金の80%だ。残りの20%は金を払った他のファンドに行くので、先住民が取る金はない。できるだけ多くの賠償金を取れなければ、ほとんど先住民に残らない。

2011年にエクアドルの裁判所は、シェブロンに86億ドルを賠償するよう判決したが、これを受け取れるかどうかはわからない。シェブロンは繰り返し控訴すると同時に、ISDも申請をした。Burfordは最近、この訴訟についての契約を他のファンドに売ったという。

ある第三者ファンドは仲裁の戦略と運営について、さらに大きな影響を及ぼす「より少なく消極的なビジネスモデル」を開発している。オランダの第三者ファンドのOmni Bridgewayは、専門家の証人選択と真相調査任務を含む「オーダーメード・コンサルティング」をしており、仲裁の過程で「単なる金ではなく技量を倍加」させるサービスを提供したいという。

また、Selvyn Seidelは「われわれはまた、請求人と弁護士の能力を倍加させる支援サービスの提供を始めた。われわれは自らを弁護士、金融業者、銀行家、会計監察官の統合的なグループだと考えたい」と話した。

その上、第三者ファンドは派生商品も開発している。Selvyn Siedelは「私たちが考えている別の商品がある。訴訟全体より訴訟の一部に資金を出し、ミニ・ポートフォリオのように5〜6件の訴訟に分散投資する派生商品だ。訴訟に資金を出した後に、信用不渡りスワップ(credit default swaps)のように、第三者にそれを転売できる可能性もある」とその輪郭を示した。投機金融資本はよくわからず、Selvyn Siedelの話はよくわからないが、第三者ファンドがますます投機性が大きい方向に進むことは明らかだろう。

第三者ファンドに隷属する仲裁過程

無法天下の第三者ファンドへの規制が必要だという批判が提起されている。全米商工会議所は、金儲けに血眼になっているこうした投資会社が訴訟に不適切な影響を及ぼすと批判した。Burfordの最高経営者のChristopher P. Bogartは、仲裁過程に影響を及ぼす意図ななく資本を提供する消極的な投資家だと言うが、そうではない。

仲裁請求人(投資家)は、自分の利害関係を管理しなければならないだけでなく、第三者ファンドの利害関係もまた管理しなければならない。仲裁請求人の弁護士には、自分の受託料を払う第三者ファンドの影響を受けかねないという恐怖がある。したがって、第三者ファンド協定のために、仲裁手続きが第三者ファンドと投資家間の関係に隷属しかねない。

ところで、第三者ファンドと投資家と弁護士の関係は、第三者ファンド協定上の契約的関係より、はるかに重なっているようだ。第2編と第3編でローファームと仲裁者の緊密な関係に言及したように、第三者ファンドも投資仲裁コミュニティの「門番」として、国際仲裁システムに重要な影響を及ぼす。第三者ファンドはコンサルティングを行い、代案を提示して、ローファームをリードしたり、誰が仲裁者で選任されるのかについても影響を及ぼす。

第三者ファンドと仲裁者、弁護士、投資家(企業)をつなぐ対人関係の網を形成しているCalunius CapitalのMick Smithの例を見よう。

Smithは現在、Calunius Capitalの会長だ。その前はローファームFreshfieldsで働いていた。彼は「そこで結んだ関係は相変らず重要で、彼らは私の第1の寄港地だ」と話したように、彼が元の同僚と親密な関係を維持したことから利益を得ている。

Rusoroがベネズエラ政府にISDを提起するためにファンドを探していた時、Caluniusはカードをつかんだ。Rusoroはカナダに本社をおくロシア資本の鉱業会社だ。2011年8月17日、ベネズエラのチャベス大統領が金鉱山の探査と開発を国有化すると発表した後、同年9月に金産業を国有化する法律が公布された。 Rusoroは、資産の移管および補償についての協議を始めたが、うまくいかず、2012年4月に操業を完全に中断した。

2012年7月にRusoroは、カナダ・ベネズエラ二国間協定を根拠としてICSID(国際投資紛争解決センター)に仲裁申請をした。ローファームのFreshfieldsがRusoroを代理し、Calunius CapitalがRusoroの仲裁費用を提供することになった。

Smithのケースは例外ではない。2011年に創立した訴訟ファンド会社のBlackRobe CapitalとFulbrook Managementは、どちらも元弁護士が運営する。 現在の、Fulbook Managementの会長でBurford Capitalの共同創立者であり、Latham&Watkinsのパートナー弁護士だったSelvyn Seidelの履歴からわかるように、仲裁専門弁護士と会社は強い関係を維持している。彼はそうした関係が「私たちに大きな助力をしてくれたし、われわれは国際仲裁を助けることで彼らに寄与することを望む」と話した。

現在BlackRobe Capitalの共同創業者で、その前はBernstein Litowitzのパートナー弁護士だったJohn P. Coffeyは、「私の元の同僚たちから投資機会が殺到した」、「普通、トップ25のローファームから要請がくる」と話した。 Burfordも主要ローファームと企業での訴訟管理経験がある人々で構成されていると自己紹介している。こうした閉じたネットワークは、仲裁者の能力、仲裁手続きの公正性と透明性において、疑問がある。実際にあるファンドとローファームは、部分的に、あるいは全体的に同じ側に属している。

これだけでなく、第三者ファンドと投資家間の関係によって、紛争の過程が延長、または短縮され、仲裁の過程に否定的に影響を及ぼすことがある。こうした例はS&T oilとルーマニアのISDで見られた。第三者ファンドのJuridicaが払っていたS&T oilの費用を中断したことで、ISD仲裁手続きが続けられなくなった。結局は、Juridicaが金を払い、さらに2年間の仲裁手続きが進められた。 ルーマニア政府としては、2年間の仲裁費用をさらに押し付けられた形だ。

軽率な仲裁申請が増加

二つ目の批判は、第三者ファンドが国際投資仲裁の数を増やすことができるという点だ。全米商工会議所が雇った弁護士のJohn H. Beisnerは、第三者ファンドが軽率な訴訟を奨励すると昨年に下院で述べた。オーストラリアの場合、全般的に第三者ファンドを自由化した後、訴訟が16.5%増加したと推測されている。

掛け金がなければ賭けはできないが、第三者ファンドが掛け金を払うことで、潜在的に投資紛争の数が増える。さらに軽率で危険が大きい訴訟になるほど、第三者ファンドのポートフォリオ投資の価値を上げることになる。「損失の恐怖への危険から逃げれば、ポートフォリオの潜在的なパフォーマンス(積極的に投資し、短期間に最大の収益を追求する投資)を極大化させることはできない」とBurfordグループが指摘したようにである。

われわれの選択は?

報告書「不当なことで利益を得る-ローファーム、仲裁者、金融業者が投資仲裁ブームをあおる方法(Profiting from injustice. How law firms, arbitrators and financiers are fueling an investment arbitration boom)」の内容を翻訳し、「投資仲裁産業」の主要行為者としてのローファーム(仲裁専門弁護士)、仲裁者、金融資本(第三者ファンド)が国際投資体制をどのように維持し、拡大するかを4編にわたり伝えた。

そしてこの報告書は、最後に仲裁手続き内外で私たちが選択できるいくつかの方法を提示しているが、紹介しないことにしよう。世界が仲裁機構によるキャッシュディスペンサーのように扱われ、仲裁判定の結果が国際的に執行される世界に対し、どんな選択ができるのかは私たちが考えるべき部分なので、いくつかの国での努力を紹介して文を終えよう。

今年1月、インド政府は二国間投資保護協定に関するすべての交渉を保留することにした。昨年、企業が投資協定によるISDの通知が頻発したため、将来、さらに多くのISDが乱発されかねないという恐れを感じた財政部と商工部が、投資協定モデルを再検討するまで、すべての投資協定を保留することにしたのだ。

2011年の春にはオーストラリア政府は、今後、これ以上の貿易協定にISDを入れないと発表した。

ISD爆弾を受けた南米は、もっと積極的な代案を模索している。ボリビアは2007年に、エクアドルは2009年に、ベネズエラは2012年1月に、国際投資紛争解決センター(ICSID)から脱退した。

そして南米国家連合(UNASUR. 2008年に発足した南米国家共同体. ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ、スリナム、アルゼンチン、ガイアナが参加)は、代案的な仲裁機構についての議論をしている。

2009年6月にエクアドルは、ICSIDを代替する代案的な仲裁センターの創設を提案し、2010年12月にUNASUR会員国の外務部長官が仲裁センター紛争解決システムの作業班の議長として、全員一致でエクアドルに決めた。エクアドルは仲裁センターの規則についての提案書を提出し、UNASUR紛争解決システム委員会はその提案を調整しており、今後、会員国が検討することになる。

UNASURの12の会員国のうち9か国が受けたISDは、ICSIDに提起されたものだけでも111件になる。これはICSIDの仲裁全体の31%を占めている。

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ISD条項に関する韓国情報活動家の記事 3

「不当なことで利益を得る(1)」「不当なことで利益を得る(2)」の続編、その3です。

不当なことで利益を得る(3)

ISDの守護者、仲裁者クラブ

By クォン・ミラン/情報共有連帯IPLeft / 2013年2月20日、4:32 PM

最近、ローンスターと韓国政府が仲裁者を選任した。ローンスターが仲裁者に指名したチャールズ・ブロワー(Charles Brower)は、2005年までの37年間、米国のローファーム、ホワイト・アンド・ケース(White&Case)に在籍し、この報告書が選定した国際仲裁市場を牛耳る仲裁者の2位に選ばれた人物だ。

ブロワーは、これまで知られている450件のISDのうち33回仲裁人に指名され、このうち94%は投資家により指名された。続けて韓国政府も仲裁者にブリジット・スターン(Brigitte Stern)を選任したという。ブリジット・スターンは、この報告書が選定した仲裁者の1位だ。この報告書は仲裁者が決して中立的でないどころか、企業に好意的な投資仲裁システムを作るパワーのある行為者になる理由を暴露している。

仲裁「マフィア」

仲裁者たちは、あまり世の中に知られていない。だが仲裁者は互いをよく知っている。学界とジャーナリスト、そして内部の人たちは、彼らを「小さくて、秘密っぽく、クラブ風の」、「インナーサークル(inner circle)」あるいは「仲裁『マフィア』」と描写している。クラブを小さく維持することは、仲裁者が投資仲裁システムをしっかり捉えていることを意味する。

匿名の国際法研究者によれば、似た価値、似た教育、似た観点でまとまった小さなコミュニティが維持されるため、投資仲裁システムが見えないという。彼によれば、仲裁システムの動き方についての仲裁者間の一貫した観点は、仲裁システムの生存に必須だと彼は主張する。だから仲裁者たちは「そのシステムを守る役割を果たす」のである。

この報告書では、これまでに知られている450件のISDを担当した仲裁者が誰なのか、投資家が要求した賠償金額がいくらなのかを調査した(最終的に判定された賠償金額は分からないことが多い)。仲裁をした件数が多い順に15人のエリート仲裁者を選定した(下表参照)。単に15人の仲裁者が今までに知られている450件のISDのうち247件(55%)を担当した。圧倒的に集中している。

そして、2003年から2010年に提起されたISDのうち、投資家が請求した賠償金額が1億ドル以上の事件を調査して順位を付けた。2010年までのISDで、一番高額な賠償金を請求したのは、エネルギー会社のYukos、Hulley、Veteran Petroleumがロシアを訴えた訴訟だ。1036億ドルを請求した。次はConocoPhillipsがベネズエラに300億ドルを請求した。

15人のエリート仲裁者たちは、1億ドル以上の賠償金が請求されたISD 123件のうち79件(64%)を担当し、40億ドル以上の賠償金が請求されたISD 16件のうち12件(75%)を担当した。賠償金が大きいISDほど、15人のエリート仲裁者に集中していることが分かる。


図1

投資仲裁システムの生存は、相互にとても強い凝集力でつながった小さな仲裁者クラブ次第だと言える。15人のエリート仲裁者たちは、皆少なくとも1回は同じ訴訟で他のエリート仲裁者と共に仲裁判定部を引き受けた。15人のエリート仲裁者が共に仲裁判定部を担当したISDは69件あった。

Marc LalondeはFrancisco Orrego Vicunnaと5回、同じ仲裁判定部を引き受け、L Yves FortierはStephen M. Schwebelと5回同じ仲裁判定部を引き受けた。Brigitte SternはMarc Lalonde、Gabrielle Kaufmann-Kohlerとそれぞれ5回ずつ同じ訴訟で仲裁判定部を引き受けた。その上、ローンスターと韓国政府が選任した仲裁者のCharles BrowerとBrigitte Sternは、4件のISDを共に引き受けた。場合によっては3人の仲裁判定部を15人のエリート仲裁者に入る人が引き受けた。こうしたケースは15件もあった。

このうち、3人の仲裁判定部とどちらかの代理人が15人の仲裁者に入っているケースは7件ある。代表的な例としては、歴代最高の賠償金1036億ドルを要求したYukos、Hulley、Veteran Petroleumとロシアとの訴訟で、仲裁者パネルはYves Fortier、Daniel Price、Stephen M. Schwebelだ。Emmanul Gaillardは投資家を代理した。

ロシアは2002年までエネルギー産業民営化を推進し、2003年5月に「ロシア エネルギー戦略:2020年まで」を発表し、エネルギー産業に対する国家統制を強化して、大企業形態の国営エネルギー会社の育成計画の下で、2004年から民間企業による運送パイプライン建設を禁じ、外国系会社の持分を49%までに制限した。

こうしたロシアのエネルギー戦略の実行の過程で、2003年に当時ロシアで1位のエネルギー企業だったYukosの会長が、脱税や横領で拘束され、2004年には未納税額のためにYukosの資産が押収されて競売が行われた。

これに対し、Yukosの株式を持っていた3つの企業は2005年、ロシアを相手にエネルギー憲章条約を利用してISDを提起した。3つの企業を代理したローファームのShearman &Sterlingが発表した依頼人機関誌「ユーコス:エネルギー憲章条約に対する歴史的な決定(Yukos:landmark decision on the energy charter treaty)」によれば、ロシアは1994年にエネルギー憲章条約に署名したが国内批准をしておらず、2009年8月にエネルギー憲章条約の会員国にならないと発表した。しかし仲裁判定部は2009年11月30日、Yukosなどがエネルギー憲章条約を利用してISDを提起することを認めると判定した。

同じISDで、仲裁と代理を同じローファームが担当したケースもある。特に、このような場合はISD制度の公正性を問うこと自体が無意味だ。Bayindir Insaat Turizm Ticaret Ve Sanayi A.S.とパキスタンとの訴訟で、Essex Court Chambersに所属するStephen M. Schwebelが企業側を代理し、同じ所属のKarl H Bockstiegelは3人の仲裁判定部の1人になった。同時に所属が同じ2人の弁護士が、パキスタン政府を代理した。

Chambersはローファームではなく、いわゆる自営業者弁護士の「職務共同体(office community)」と言えるので問題にはならないと主張するが、HEPとスロベニアとの訴訟で国際投資紛争解決センター(ICSID)の仲裁判定部は、仲裁判定部議長のDavid A.R. Williamsと、スロベニアが代理人に選定したDavid MildonがEssex Court Chambersに所属しているため、スロベニア政府はDavid Mildonに弁護を任せられないと決めた。

仲裁者の多くの地位

仲裁者は、弁護士、あるいは専門家として、証人としてISDに直接参加したり、政府の代表者や諮問を引き受けて政策に影響を与え、学界で問題を提起し、企業の代わりにロビイストとして活動したり、企業の理事会に参加する。これにより彼らは投資仲裁システムを維持し、利益を得る。こうしたことは、仲裁者にとっては平凡なことだ。

ローンスターと韓国のケースも同じだ。韓国政府の代理をしたアーノルド・アンド・ポーターのジーン・カリッチ(Jean Kalicki)とローンスターを代理したシドリー・オースティンのスタニミール・アレクサンドロウ(Stanimir Alexandrow)は、有名な仲裁者でもある。

この分野でとても華麗な履歴を持つ人を紹介しよう。ダニエル・プライス(Daniel Price)だ。プライスは典型的な投資仲裁チャンピオンではないが、一番多くの地位についた仲裁者を選べと言えば、当然プライスが1位だ。

投資協定交渉家、ISDを擁護する企業ロビイスト、企業の利益を防御するコンサルタント、新自由主義を促進するメディア解説者、仲裁者、これらはすべて彼の履歴だ。プライスは過去20年間、何回も回転ドア人事を経験した。プライスは、自分が交渉を促進した投資協定の受恵者だ。米貿易代表部の責任法務諮問委員になり、米露BIT(1992年署名)の交渉をした。彼はもまたNAFTAの投資保護条項について交渉した。彼は投資家-国家訴訟条項を考案し、企業にこの条項を利用して政府に対する訴訟を要求した初の米国弁護士の1人として知られている。

1992年、彼は初めて政府の要職から離れた。彼は投資仲裁産業に無限の利益を創出する可能性を見つけ、その産業を発展させることにした。2002年から2006年に、彼はメキシコ政府を相手にアリアンツ(Fireman's fund insurance)の代理となった。訴訟の間、アリアンツのためにホワイトハウス、米貿易代表部、国務省、商務省にロビーを行った。

また、モンサント、国際投資機構、米国の製薬会社と生命工学会社のためのロビイストとしても活動した。Yukosなどがロシアを相手にISDを提起した2005年から、ホワイトハウスの招請を受ける2007年まで、Yukosが指名する仲裁者だった。

プライスは米国のローファーム、Sidley Austinで国際投資紛争解決担当部で議長として4年間活動した後、2007年にジョージ・ブッシュ大統領の高位級の経済諮問を担当し、また米政府に戻った。

2008年に国際経済危機が頂点に達した時、彼は解決の方向性についての論争に影響を与える位置にあった。彼はG8(東京)でブッシュの特別代表を引き受け、2008年にワシントンで開かれた初めてのG20首脳会談を陣頭指揮した。G20は「私的財産の尊重、貿易と投資開放、競争的市場を含む自由市場の原則について約束すれば、われわれはこの改革が成功するだろうということを認める。開発途上国を含み、われわれは経済的成長に害を与え、資本の流れを悪化させる規制を避けなければならない」と話した。まさにプライスが支持してきた措置だ。

彼は2009年にローファームのSidley Austinに戻り、2011年にまた辞めた。彼はビジネスコンサルタント会社のRock Creek Global Advisorsと独立の法律業務の両方を始め、企業との関係を振興させる計画だ。彼は自分を中立的仲裁者と言い、企業に対し政府の規制を避ける方法についてコンサルティングをする。

投資協定に署名すること

誰もがご存知の通り、投資協定のISDでは、政府に訴訟をすることができるのは企業だけだ。仲裁専門弁護士や仲裁者にとって、この言葉は投資協定がなければ訴訟もなく、訴訟がなければ仲裁者や代理人には選任されないということを意味する。したがって、投資仲裁産業を成長させるには投資協定の締結を要求することが必須だ。

1990年代にJan PaulssonはNAFTA協定11条(投資保護)の交渉でメキシコ政府の諮問をした。そして彼は企業がメキシコ政府に提起した2件のISDで、仲裁判定部を引き受けた。Emmanuel Gaillardは政府の諮問は引き受けなかったが、2010年にモーリシャスで開かれた公開カンファレンスを活用して、モーリシャス政府が投資協定に署名するように奨励した。米政府を代表して、NAFTA11条(投資保護)の交渉を率いたDaniel Priceは、当時メキシコ政府がISDを受け入れるように積極的に圧力を加えた。その結果、メキシコ政府は別名Calboドクトリンと言われる原則-国内裁判所だけが外国人投資家が提起した訴訟の司法権を持つ-を捨てた。Calboドクトリンは、メキシコ憲法の一部だった。その後、プライスは米国企業のTate&Lyle Ingredients AmericasとFireman's fund insurance(アリアンツ)がメキシコ政府に対して訴訟をした時、これらの企業の代理をした。

曖昧な規則、さらに多くの訴訟

前編で言及したように、仲裁機構は特別な仲裁基準や規則は持っていない。投資協定文だけが根拠だ。したがって、投資協定の条項が曖昧であるほど、正確性が低いほど、企業が訴訟をする機会が多くなる。

国連国際貿易法委員会(UNCTAD)は「国際投資協定の条項は、厳密に表現されていない」と指摘した。その結果、投資協定の曖昧な規則を仲裁者がいかに解釈するかに全てがかかっている(UNCTAD 2011)。規則が曖昧なほど、仲裁者の役割が重要になる。

投資家にとって、公正かつ平等な待遇を提供する政府の義務(fair and equitable treatment、公正衡平待遇と呼ばれるようになる)はISDの重要な理由として登場した。

国連国際貿易法委員会(UNCTAD)によれば「投資家が訴訟を提起するとき一番よく依存し、最も成功的な根拠になっている」この条項は、一番質が低く、不明確な条項の一つだ。また、仲裁者が「公正で平等な待遇の概念を広く解釈してきた」と指摘し、「結論は、限りなく不均衡的な接近になる。投資家の利害を擁護し過ぎている」と結論した(UNCTAD 2012)。

2010年5月までに結果が公開されている140件のISDについての統計研究(2012)で、Gus Van Harten教授は仲裁者たちが投資概念、法人投資家、少数株主権、併行訴訟といった問題について、請求人(投資家)に都合がいいように拡大解釈する傾向が強いことを確認した。また仲裁判定では、投資家の国籍が強く作用する傾向を確認した。投資家が米国、英国、フランス、ドイツ国籍であれば、仲裁者は拡大解釈する傾向を見せた。

仲裁者が投資家の代理になる時も同じだ。NAFTA協定によるFireman's fund(アリアンツ)とメキシコの訴訟で、投資家はメキシコ政府が財政的投資を収用したと主張した。これは、メキシコ政府が1997年の金融危機の時に取ったエネルギー措置の結果だった。この訴訟の判定では、NAFTA協定受け入れ条項の解釈が決定的だった。噂によれば、投資家の代理をしたDaniel PriceとStephen M. Schwebelは「収用」が財産権の没収概念より広い方式で解釈されるように主張する82ページの報告書を提出した。

しかし仲裁者たちは、人権と社会権についての国際法の接近は制限的だ。2012年5月にヨーロッパ憲法と人権センター(ECCHR)は、ジンバブエに対して提起された2件のISDについて仲裁判定部に声明書(法廷助言)を提出しようとした。木材農場に関する訴訟だったが、ヨーロッパ憲法と人権センター(ECCHR)は紛争中の農場は先住民の先祖が住んでいた区域にあるとし、裁判の結果が土地に対する土着共同体の権利に影響すると主張した。

Yves Fortierが議長になった仲裁判定部はこうした憂慮を聞くことも拒否した。国際司法裁判所判事のBruno Simmaは、「経済的、社会的権利を考慮することは、投資家国家仲裁では例外」だと指摘した。

投資協定の改革を防ぐこと

ローンスターが選任した仲裁者のCharles Browerが「国際仲裁の基本的な要素を変えるいかなる提案も、仲裁機構には受け入れられない攻撃になる。反対に、こうした基本的な要素を強化する提案は、注意深く考慮されるべきだ」と言う程、投資仲裁システムの変化に反対する。

前編で、リスボン条約の発効後、ヨーロッパの投資政策について仲裁専門ローファームと有名な仲裁者が影響を及ぼす方法について言及したが、米国でも似たようなことがあった。

NAFTA協定の下でカナダの企業から、何回も訴訟にあった米政府が、2004年に1994 BITモデルを修正し、新しいBITモデルを導入した。2004 BITモデルは、米政府が特に保健と環境の領域で統制権を発揮できる政策空間が若干導入されたが、期待できるようなものではなかった。

米政府で要職に付き、20年間国際司法裁判所の裁判官を歴任した有名な仲裁者のStephen M. Schwebelは、こうしたささいな変化さえ非難した。米国を代表して投資協定の交渉をしたDaniel Priceも反対した。最も有名な仲裁者のひとりであるWilliam W. Parkは「こうした政策の変化は問題が多く、海外の米国投資家に相当な被害を引き起こすだろう」と話した。

そして2009年にオバマは大統領候補として、労働と環境に対する義務を強めるために2004モデルを再検討することを約束した。だが2012年に出された新しいBITモデルは、実質的な変化はなかった。2012年5月8日のTPP(環太平洋経済パートナー協定)交渉のために時を合わせて発表されたものだという。

主な変化は、これまでのISDに対する批判を反映させ、投資により「労働と環境」を傷つけないようにすること、「将来は控訴制を導入」してISDの透明性と公正性を強化することだ。だが3人の仲裁者が下した決定により、政府が損害賠償をする構造には変わりはなく、投資家が損害を受けないように国家主導経済を制限したため、実効性については批判的がある。当時、米国政府の諮問委員会の一員だったStephen M. Schwebelは、1994年モデルに戻すことを支持した。

最近では南米国家連合(UNASUR)が、国際投資紛争解決センター(ICSID)に代わる仲裁センターの建設を議論している。エクアドルのコリア大統領は、南米が自主的に紛争解決機構を創立することを提案し、ベネズエラのチャベス大統領もエクアドルの提案を支持している。チリ出身の有名な仲裁者、Francisco Orrego-Vicunaは、「非常に投資家親和的と見なされるICSIDのような機構を代替するという提案は良いアイディアではないと思う。なぜなら、そんな機構はほぼ確実に非常に政府親和的と認識されるだろうし、投資家は満足しないだろう」と主張した。

一方、投資仲裁システムに対する批判が強まっていることで、エリート仲裁者たちは現システムの基本には触れず、妥協する方案を探している。例えばWilliam W. Parkは、政府の統制がきく政策空間を回復させる立場をある程度受け入れ、「さもなくば投資家国家仲裁は投資家の勝利に反発する大衆的な圧力の犠牲になりかねない」と指摘した。

Honatiauはもっと直接的だ。彼は仲裁システムのすべての参加者の役割を再検討し、システムの作動方式の変化を受け入れる必要性を認め、「こうした代価を払うことによってのみ、数十年間、仲裁者は国際的な取り引きの「天賦の裁判官(natural judge)」として残ることができる」と話した。

Jan Paulssonは仲裁機関がさらなる透明性を持つために、紛争当事者が仲裁者を選任せず、仲裁判定部全体を選任するべきだと提案したが、仲裁システムの投資家に親和的な偏向については触れない。彼は国連の国際貿易法委員会(UNCITRAL)の規則に透明性の条項を入れる試みを阻止しようとするバーレーン代表を防御した。Charles Browerは仲裁コミュニティが「システム全体の根本的な再設計を要求しない」程度の大きさの改革だけしか受け入れる準備ができていないと指摘する。つまり、小さな改正を受け入れることで仲裁システムの構造的な変化を未然に防ぐのである。

原文(レディアン)

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