2013年1月23日水曜日

積層セラミック・コンデンサ

何気なく古いパソコンから外した安物のサウンドカードを眺めていて気がついた。
ふとそれなりのオーディオ回路なら普通に使われているようなフィルムコンデンサーがない。どうやらコンデンサーはすべてチップコンデンサーを使っているらしい。何も表記がないのでわからないけれど、おそらく積層セラミックコンデンサーなのだろう。
オーディオ回路にセラミックコンデンサー?
ちょっとショックだった。いくら安物のサウンドカードとはいえ、オーディオ回路にセラミックコンデンサーとは。

実は以前、音質は二の次、とにかくブーストという程度のちょっとしたマイク用プリアンプのカップリングに積層セラミックを使ったことがあって、「結構使えるじゃん」とか思ったことがある。それでもオーディオ回路にはフィルムコンデンサーというのは常識で、セラミックなんて使ったらキンキン変な音になるもんだと思い込んでいたのだけれど、パソコンのサウンドカード程度のクォリティなら積層セラミックでも何とかなるということか。

調べてみると、最近の積層セラミックはそんなに特性は悪くないらしい。うるさいことを言わなければ、オーディオ回路でも使えないわけではないらしい。
ぼくはソレっぽい音が鳴ってれば満足してしまうので、フィルムコンデンサがなければ積層セラミックでもいいような気がしてきた。ただ、セラミックコンデンサの欠点は、バラツキが大きいことで、昔、「セラミックコンデンサの容量なんて2倍ぐらい違うこともあるよ」なんて話を聞いた覚えがある。音楽を聞く場合だと、左右のチャンネルのコンデンサーの容量があまり違うと音質や音量、特性のバランスの違いにつながってしまう。これはあまり気持ちのいいものではない。

部品箱の中の積層セラミックの袋を見ると、容量の誤差は+80%、-20%と表示されているのだが、本当にそんなに違うのだろうかと思って、容量を測ってみた。もっとも、容量計なんてしゃれたものは持っていないので、NE555で発振器を組んで、1000円のデジタルテスターの周波数計レンジで周波数を測って、そこから容量を逆算してみた。
0.1uF表示の積層セラミック10本ほどを測ってみたところ、意外にも容量のバラツキは小さく、0.99から1.1ぐらいまでだった。これをバラツキが大きいと言えば大きいんだろうけど、おそらく、もっとたくさん測れば、中には+80%ぐらいのものもあるんだろうね。
もっとも温度による容量変化が大きいのは教科書通りで、指で温めるだけで10%ぐらいは簡単に変動する。夏と冬で音質が変わるアンプなんて、オーディオマニアにはとても許せないだろうけど、ぼくは左右のチャンネルが同じように変わるんだったら10%ぐらいは許容範囲内だ。

いつか、フィルムコンデンサとセラミックコンデンサを差し替えて、どれぐらい影響があるものか実験してみようかなと思う。

2013年1月7日月曜日

「靖国放火犯」の本国送還

韓国の日本大使館に火炎瓶を投げた中国人が、靖国神社の門に放火したという容疑で、日本側が日韓犯罪人引渡協定により身柄の引渡しを要求していた件で、韓国政府はこれを拒否し、容疑者を中国に帰国させた。日本政府は 「『(日韓犯罪人引き渡し条約を)事実上まったく無視した』と批判」したという(日経の記事)。「事実上」という単語がついているあたりが面白い所で、「まったく無視した」と断言することはできないということだろうか。
報道によれば日本政府は「今後、『政治犯』の定義などの見解について、韓国側に明確な回答を求める」という。すると日本は韓国での裁判所の決定書も検討せずに「事実上まったく無視した」と非難しているということになり、それはそれで問題がありそうな気がする。ただし、この裁判については日本政府関係者や報道関係者は綿密にフォローしていたようだけど。

このあたりが気になったのでいろいろ調べてみたのだが「靖国放火」が政治的犯罪かどうか以上に、「靖国放火犯」の存在そのものが政治的な存在になってしまっている。いや、そもそも「靖国」という存在が政治的な存在なので、必然的にそれを取り巻くすべての事件は政治的な事件になってしまう。
しかし、今回の引渡し拒否については特に、日本が放火容疑者の劉さんの引渡しを要求したあと、中国が国を挙げて劉さんのサポートにまわったという点で国際的な政治問題になってしまった。今回の裁判では中国政府が韓国有数のローファームと契約して韓国最高の弁護士を何人も雇い、劉さんの弁護をさせたという。日本政府は、日本大使館放火事件で逮捕された容疑者が靖国放火を自供して以来、何度も韓国政府に容疑者の身柄引渡しを要求してきたという。そして中国政府は、彼は政治犯であり、中国に送還するようにと求めたという。朝鮮日報のコラムによれば、中国の公安関係者が日本の要求に応じれば深刻な外交問題になると脅しをかけたという。ちなみにこのコラムは送還決定前に書かれたものだが「弁護人は送還が決定されると信じている」と書いている。
いずれにしろ韓国外交部は、日本と中国の板挟みになって、どっちに引き渡しても反対から非難され、外交的に苦境に陥ることになってしまった。

韓国政府は、政府としての判断をせず、司法に判断を丸投げして司法判断に従う、という手を使ったわけだが、韓国の報道によれば、韓国の裁判所は、判例もない裁判で苦労したそうだ。豪華弁護団がついていなければ、引渡しの決定が出ていたかもしれない。とにかく裁判所は海外の事例や学説などを検討して、「絶対的政治犯罪」、「相対的政治犯罪」のうち、今回の件は「相対 的政治犯罪」にあたるとし、これが一般犯罪なのか、政治犯罪なのかの判断の基準として、(1)犯行の動機が個人的か政治的か、(2)犯行の目的がその国の 政策を変化させようとするものか、(3)犯行の対象が象徴するものの政治性、(4)犯行と政治的目的に有機的関係があるか、(5)犯行の法的·事実的性 格、(6)犯行の手段、あるいは方法の残虐性の六項目を設定、これについて検討した結果、「政治犯罪にあたる」という結果を出したという。
なお、弁護団は劉さんが日本に引き渡された場合、政治的な差別を受ける可能性があるという主張をしていたが、これについては政治犯罪の判断基準には含まれ なかった。

ぼくは法律には疎いので、日韓のどちらの主張が正しいのか判断することはできないのだけど、ネットなどで見かける「放火やテロを奨励するような内容」(産経)といった雑な議論ではない。
また差別の可能性や政治的裁判の可能性を判断基準にすると、日本の司法が信頼できないという意味になって、外交上の大問題に発展しかねないからなのだろうが、日本では天皇だの靖国だのがからんだ裁判は被告にとって相当不利になるのは明らか。日本政府は「一宗教施設への単なる放火犯であって政治犯ではない」と主張しているが、反靖国運動などへの超法規的な弾圧を考えれば、靖国放火犯が「単なる放火犯」として扱われるとは思えない。これは中国政府としての立場でも同じで、「単なる放火犯」ではないと見ているからこそ国家的にバックアップしているわけだ。

ところで韓国の裁判所は、劉・元受刑者の認識と見解は大韓民国憲法の理念や国際機関、大多数の文明国が目指す普遍的価値と一致していると判断したという。これはいかにも韓国的だなと思う。ぼくの主観的な印象なのだが韓国の裁判では、大義や法の理念といったものが重視され、情状酌量の余地も日本より広いように思う。悪く言えば、最後まで頑張って世論を味方に付ければ勝ち、みたいなところがある。おかげで法による救済が困難なケースでも救済されるという肯定的な結果になることもあり、逆に法で処罰されるべきケースでもうまいこと逃げてしまうという否定的な結果になることもある。韓国では、有能な弁護士を雇える金持ちは裁判にかけられても無罪になり、弁護士が雇えない貧乏人は有罪になるという「有銭無罪・無銭有罪」という言葉があるほどだ。
今回の引渡し拒否の決定も中国政府のバックアップを得たおかげで、「有銭無罪」になったケースだと言えるのではないかと思う。

世界のそれぞれの国にはそれぞれの制度があり、正義がある。急速なグローバル化は、そんなそれぞれの国の事情を平準化しようとしているのだが、それはそれでまた問題の火種になる。最近話題のTPPのISDS条項も、国によって異なる制度の問題を解消しようとする試みの一つで、日本でもこれを問題視する人は少なくない。同時に、グローバル化は何らかの共通の価値観を必要としているのも事実で、韓国の中でも今回の件で容疑者の引渡しを拒否したことは国際条約の理念から見て正しくないという意見もある。実際、韓国政府としてはどうやら容疑者を引渡したかったように見受けられるが、その場合に予想される対中国関係の悪化や国内的な反発で悩んだようだ。
ちなみに、欧米の反応を調べてみたが、欧米人が書いたと見られる英文のブログでは「日本に引き渡すべきだった」という文章が数件見つかったものの、主流メディアはこの件については単に事実を伝えているだけだ。どうやら日本政府が考えているほど「(日韓犯罪人引き渡し条約を)事実上まったく無視した」というようなものでもなければ、韓国政府が望んでいるように純粋な司法判断として処理できるようなものでもないということではないと解釈することもでき、「また日韓がバカみたいな綱引きをやってるし…」という無関心の現れなのかもしれない。

結局、この種の問題を解決する方法は、相互の理解と信頼でしかない。そして相互の理解と信頼がなければ、「一宗教施設への単なる放火」が国際的な外交問題になってしまう。そして韓国も中国も、少なくとも靖国や従軍慰安婦といった問題に関しては、全く日本政府の主張について理解も信頼もしていない。そして日本は韓国や中国の態度に不信を募らせるばかりだ。
こうした日中韓の三か国の不信と感情的なギャップは、戦争責任があり、アジアで最も進んだ民主的国家だと自慢する日本が率先して埋める努力をしなければ、永遠に狭まることはないだろう。中国や韓国を「遅れた国家」だと考えている人も少なくないようだが、それほど誇り高い日本が中国や韓国と同じレベルで「お前が悪い」、「そっちこそ何だ」といがみあっているようでは、まあ、何ともみっともない話である。今の段階で、韓国や中国が納得できるような努力をすることができるのは、安倍首相だけなのだけどねえ…