2013年10月28日月曜日

秋月のLIS3DH加速度センサー

半年ぐらい前、秋月で買ってきたまま部品箱の肥やしになっていたLIS3DHという三軸加速度センサーモジュールを週末にArduinoにつないでみることにした。 ネットを検索すればコードのサンプルでも出てくるかと思ったんだけど、適当なサンプルが見つからなかったので、データシートを読むことになっちゃった。
接続はSPIで、普通にArduino側の11,12,13をMOSI,MISO,SCKに使い、10ピンをセレクトに使う。

2013年9月22日日曜日

「カドラ通信」続報


8月31日にこのブログで「北朝鮮で公開処刑」という「カドラ通信」という文章を書いた。しばらくこの件に関する情報は出てこなかったのだが、9月20日に朝日新聞デジタルが「正恩氏夫人に醜聞か 所属した楽団が解散、公開処刑も」という記事で、この件に関するものと思われる記事を公開した。朝日新聞デジタルの記事は情報のソースについても書かれていて上記の「カドラ通信」より信頼度は高い。なお、朝鮮日報は「北, '리설주 포르노설' 보도에 "우리 최고존엄 모독… 극악한 도발"(北、'李雪主ポルノ説'報道に"われわれの最高尊厳の冒涜…極悪な挑発")」という記事で、北朝鮮の朝鮮中央通信の文章を紹介している。この文章を書いている時点で、朝鮮中央通信の原文が検索できないが、朝鮮日報の記事によれば、朝鮮中央通信は「ポルノ説」は謀略であり卑劣な中傷だと強く非難しているという。

2013年9月13日金曜日

盗難/紛失に備えるGPG鍵の作り方

GnuPG(GPG/Gnu Privacy Guard)は、公開鍵、秘密鍵の2種類の鍵を使う、というのは誰でも知ってる。しかし主鍵(プライマリキー)と副鍵(サブキー)については、あまり知られていない。とりあえず主/副の鍵は何も気にしなくても、特に使用に不都合はないのだが、最近、副鍵の面白い使い方を知った。GPG秘密鍵が入っているノートパソコンやスマホなどの紛失や盗難にあったとき、インパクトを最小にするためにサブキーを追加してプライマリキーを削除したキーリングを使う方法というのがあるというのだ。
秘密鍵を盗まれると、その鍵を使って他人が所有者になりすましたり、暗号をやりとりすることができるようになる。
それでは困るので、失効証明書を発行してその鍵を使えないようにすればいい。
ただ、鍵を失効させてしまうと、新しい鍵を作りなおさなければいけなくなる。新しい公開鍵を配布し直さなければならないことは言うまでもないが、信用の輪(web of trust)もゼロから構築しなおさなければならない。公開鍵の配布はともかく、web of trustの中にいる人にとっては、信用関係を構築し直すのは相当めんどくさいことになる。
しかしサブキーの仕組みをうまく使えば、公開鍵のIDを変更することなく、盗まれた鍵だけを失効させ、新しい鍵に入れ替えることができる。この場合、新しく公開鍵を配布し直さなければならないことに変わりはないが、新しい鍵は従来の鍵と同じ信用を持っているので、相手側は安心して鍵を入れ替えることができる。

2013年8月31日土曜日

2013年8月15日木曜日

終戦の日

ぼくの父は海軍の飛行機乗りだった。日本の敗色が濃くなると、父も特攻隊に志願することになって、9月に出撃するはずだったという。もし、降伏が1か月遅れていたら、または特攻の順番が1か月早ければ、ぼくは存在していなかったわけだ。
父が特攻隊に志願したのは、ずいぶん前からどうせ負けは明らか、圧倒的な戦力の差の前で本土決戦などと言われていた当時、飛行機乗りが生き延びる可能性がある選択肢は事実上なかった。敵艦に突っ込んで死ぬか、空中戦で死ぬか、どっちにしても死ぬんだったら、でかい軍艦を沈めて死ぬほうが得(?)だという計算だったらしい。クレイジーな戦術だとも言われる けれど、そもそも「どっちにしても死ぬしか選択肢がない」という状況で、クレイジーじゃない戦術なんてあるだろうか。特攻がクレイジーなのではなく、戦争がクレイジーなんだ。

ところが68年前の今日、戦争は終わり、おかげでぼくもこうして生まれてきた。
降伏の決断が1か月早ければ、もっと多くの人が生まれていただろうし、1か月遅れていたらぼくをはじめ、今生きている人のうち、何十万人か、何百万人かは存在していないだろう。他人の話ではなく、それは自分かもしれない。

降伏の決断が遅れたのは国体とやらを心配したからだという。バカバカしい話だ。

2013年8月13日火曜日

人間の條件

正月やGW、夏休みなど、まとまった時間が取れる時に、普段なかなか見ることができない映画を見るようにしていて、今年の夏は古い松竹映画、「人間の條件」を一気に見てしまった。
 前々から見たいと思っていた映画だったのだけど、何しろ長い。第一部から完結編まで全部見ると10時間近い超大作である。もちろん、全部通して一気に見なきゃいけないってもんでもないのだけれど。
とにかくなかなかすごい映画で、今だからこそ、ぜひ多くの人に見てもらいたい映画でもある。
映画評なんて上等なものではないけれど、せっかく見た映画なのだから、見て感じたこと、考えたことなどを並べてみよう。

2013年7月8日月曜日

今度は自民党に投票しようかと思っているみなさんへ

これまで自民党に投票してきた人、前回は民主党に投票したけど今度はやはり自民党に投票しようと思っている人、あるいは自分は保守だから自民党だと思っている人、左翼が嫌いだから自民党に投票するという人、ちょっとだけ時間を作ってこの文章を読んでください。

まず、結論から書きます。自公連立で安定した政権がいいと思うのでしたら、自民党ではなく、公明党に投票してください。

その理由をできるだけ短く説明します。

その前に私の政治的なスタンスと立場を説明しておきましょう。私は、若い頃は漠然とした保守主義者でした。年齢を重ねるにつれてどういうわけだか左傾化してしまい、選挙では民主党や共産党、社民党などに投票してきました。職業はフリーランサーで、どの企業や政治団体、宗教団体、労働組合、あるいはその他の既得権団体にも所属せず、ひたすら自分の時間と能力を売って暮らしてきた人間です。購読紙は日本経済新聞、テレビは見ません。宗教は特にありませんが、強いて言えば浄土真宗です。

自公政権について

私は、自公連立政権の経済政策や安定感のある政権運営の魅力を認めざるを得ません。言いたいことは山ほどありますが、昨年までの民主党政権のあまりのだらしなさを思い出すと、保守を自認する人や、安定した政治を求める人に対して民主党に投票してくれだの、社民党に投票してくれと言っても、きっと耳を貸してもらえないでしょう。保守政治の魅力は現実的であること、そして安定感です。保守の立場から考えれば、確かにアベノミクスの異次元の金融緩和は見事でした。自民党が主張するTPPのメリットも一理ありますし、原発再稼働やむなしという考え方も、消費税の値上げも感情的に反対するだけではだめだという意見ももっともです。そして自公が圧勝して衆参のねじれが今回の選挙で解消されれば、絶望的なデフレスパイラルから脱し、日本の経済を安定させることもできるでしょう。

憲法が危ない

私が公明党への投票を訴える理由は、憲法の問題です。いえ、九条の話ではありません。私もかつて保守主義者でしたから、現実的に軍事力の保持を認めるべきだという考え方は理解します。

私が今回、絶対に自民党への投票をしてはならないと信じている理由は、自民党の憲法に対する態度や姿勢、人権や民主主義に対する自民党議員の理解が驚くほど未熟で、この国の自由と平和を破壊しかねないほど危険なものだからです。世界でも例のないような、まさに「異次元」の憲法です。

しかし公明党は、改憲(加憲)を掲げていますが、自民党をはじめ、声高に改憲を唱える保守と比べれば、基本的に現行憲法の枠を大きく超えず、現行憲法の価値観を継承しています。今の私が見ても、公明党の憲法に対する姿勢は正しいと思います。少なくとも憲法に限れば、私は公明党の見解は積極的に支持できるものだと考えています。

今回の参議院選挙では、自公は圧勝すると言われています。自民党だけで単独過半数を取るかもしれません。公明や野党の改憲勢力を入れれば改憲に必要な2/3の議席は夢ではないでしょう。

自民党の圧勝が予想される中で、私は公明党が自公連立の中で少しでも多くの議席を取り、自民党が憲法草案で掲げているような改憲に対するブレーキになってほしいと思っているのです。

失礼な言い方になるかもしれませんが、どうせ自民は圧勝です。みなさんが自民党に投票しなくても、きっと安倍政権は安泰でしょう。しかし、自民党の議席が増えれば増えるほど、日本を危険な方向に導きかねない憲法改正の可能性が高まってしまいます。

自民憲法は現実的な危険

憲法なんて、庶民の生活に何の関係があるのかと思われるかもしれません。本当にそう思っているのなら、中国や北朝鮮のような国でも幸せに暮らせるでしょう。しかし、もし中国や北朝鮮のような国では暮らしたくないと思うのでしたら、憲法は本当に重要です。

自民党の憲法草案というものがあります。この憲法草案を読んだことがある人は少ないと思いますが、世界の国々が歴史の教訓から学んで積み上げてきた自由や民主主義、人権といった価値観を真っ向から否定しています。長くなるので具体的には説明しません。一つだけ例を上げると自民党自身が「天賦人権説に基づく規定振りを全面的に見直しました」と書いています。人権も、民主主義も、政権の思い通りに制限されかねません。そんな憲法を持つ国が中国や北朝鮮とどこが違うでしょうか。自民党憲法草案に対する批判は「自民党憲法草案 問題点」のキーワードで検索してみてください。

憲法は現政権以後も存在し続ける

もちろん自民党が勝てば、すぐ中国や北朝鮮のような政権になるとか、戦前の日本に戻る、と言いたいのではありません。私もかつては保守でしたから、自民党のような日本の古い保守政治の良識は、理解しているつもりです。

問題は、これが「憲法」だということです。憲法というものは、時の政権の姿勢だけを決めるものではありません。これから長い間、何十年も、あるいは百年以上も日本の国の最高法規であり続けるということです。一度改正したら、今の自民党よりも長く続くかもしれません。もし、自民党の憲法草案のような憲法改正が現実のものとなり、その憲法が持つ危険な要素を悪用する独裁者が登場しても、その時はもはや憲法は何の歯止めにもならないのです。

自民党がいくら信頼できる党だとしても、憲法に対する自民党の無邪気なまでの独善、法や人権に対する無理解、そして驚くほどの国に対する、国民に対する無責任さは、どれだけ批判しても足りません。憲法改正が争点のひとつになっている今度の選挙で、このような考え方を堂々と方針として掲げる党への支持を意味する投票行動は、絶対にしてはいけません。

自民党にブレーキを

あるいは公明党を支持する宗教団体の存在が気になると思われるかもしれません。正直言って、私はあまり公明党は好きな政党ではありません。しかし心配する必要はありません。決して公明党は自民党を飲み込むようなこ とはありません。候補者数を見てもそれは不可能です。今の公明党にできることは、せいぜい自民党や改憲勢力の暴走に常識的なブレーキをかける程度です。

日本の有権者の多くが、経済再生を願って安倍政権に投票する気持ちはよくわかります。しかしもし自民党が圧倒的多数の議席を占めれば、憲法は破壊され、日本という国が取り返しのつかない破滅の道を開くものなのです。

ですから今度だけでいいのです。もし公明党が気に入らなくても、日本を守るために一回だけ、自民党と連立を組んでいる公明党に投票してください。そして、少しでも自民党の暴走にブレーキをかける意思を示してください。経済政策は支持する、しかし危険な自民党憲法には反対するという意志の表明が、公明党への投票なのです。

私自身は、まだ投票先を決めていませんが、ずいぶん前に保守をやめたので公明党には投票しないでしょう。しかし、もし、今でも私が保守主義者であり続けていたとしたら、きっと自民への批判として公明党に投票したと思います。日本の多くの自民党支持者は、かつての私もそうでしたが、保守としての常識と健康な民主主義を望んでいるはずです。日本社会が平等で、民主的で、人権が尊重される豊かな社会であってほしいと思っているはずです。そうであればこそ、自民への批判として、あえて公明という選択をしてほしいのです。

最後に私の本音

最後に本音を書かせていただければ、自民でも公明でもなく、共産党や社民党、みとりの風、生活の党といった政党の候補者に投票してほしいと思います。さすがに民主党は愛想が尽きましたが、それでもずいぶん勉強もしたでしょうし、反省もしているでしょう。現実的には自民に代わる受け皿になりえるリベラル指向の保守政党が民主党(私から見れば民主党は保守です。決して左翼とは認めません)ですから、自公連立への批判票という意味では民主党でもいいかもしれません。

本当は、アベノミクスも、TPPも、原発再稼働も、消費税増税も、自公政権がやっていることはすべて反対です。しかし、そんなことはここで書くことではないでしょう。しかし憲法だけは、政治的スタンスの差を越えて保守支持者のみなさんと共有できるものがあると信じています。

とにかく、私が訴えたいことは、自民党憲法草案のような改憲だけは、将来の日本のためにも絶対に阻止しなければならない、そして今度の選挙は日本が危険な方向に進むか、それとも踏みとどまるかの重大な岐路だということです。そうでなければ、わざわざ安倍政権に反対する私が公明への投票を呼びかけるなどということもなかったでしょう。それほど私は危機感を持っています。

この文章は、決して党利党略や、特定の政治勢力の利益のために書いたものではありません。あるいは、こんな文章を書いたら左翼の知人に怒られるかもしれません。しかし私は自分が生まれ、育ったこの国の社会が、目の前で破壊への第一歩を踏み出すことをとても見ていられないのです。

私の一票や、私の付き合いのある周辺の知人の票、左翼の票だけでは、いや、今回は左派が束になってかかっても、自民党の暴走を止められそうもありません。ですから、自分の普段の主義主張を捨てても、良識ある保守主義者のみなさんの力を借りて、自民党の暴走を食い止めたいと思い、この文章を書きました。

できるだけ短くと思いましたが、ずいぶん長くなってしまいました。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。

2013年5月18日土曜日

橋下市長の慰安婦必要発言

大阪市長の橋下君のツイートによれば
日本は悪いことをした。しかし日本だけが特別なんじゃない。当時は世界各国同様のことをしていた。だからと言って日本を正当化するわけではない。日本は悪かった。しかし、日本だけを不当に侮辱するのは止めろと言う議論だ。
ということらしい。

しかし、日本(とドイツ)だけは特別だった。日本政府の関与云々とは無関係に、民間が運営していたとこになっているとしても、日本軍の慰安所での慰安婦の待遇はダントツに悪かった。「慰安婦」という呼称と違い、まさに「性奴隷」だったから国際的に日本だけが非難されているのだということを橋下君はしらないんだろうか。
その上で、戦時性暴力については、日本の従軍慰安婦問題から国際的な方向に進んだ。主に日本を対象としていたクマラスワミ報告の後にはマクドゥーガル報告なども出され、すでに議論は国際的なものになっている。日本だけが戦時性暴力で非難されているわけでは決してない。

また米軍も実際、性犯罪や、軍内部での性暴力など、この問題でとても苦しんでいる。だから橋下君の不用意な発言が米軍司令官を凍りつかせ、「風俗はオフリミットだ」言わせた。さらに米国は過去の奴隷や侵略の歴史でいまだに苦しんでいる。米国は自分たちが抱える関連する問題の解決に必死になっているのに、「当時としては必要だった」という、まるで当事者意識が欠如した発言、それもよりによって世界最大級の人身売買国として監視対象になっている日本から発せられた橋下君の脳天気な発言に、サキ報道官が「言語道断で不快だ」というのは当然だろう。

こんなことは、普段から人権やこの種の問題に関心があれば常識の範囲ではないだろうか。今さら「日本だけを不当に侮辱するのは止めろ」、「日本もアメリカ同様、人権を尊重する世界を目指していく」なんて言ってカッコつけてみせたところで、結局は最初の暴言を糊塗するための思いつき的な言い訳なのだが、そこで引き合いに出される米国や沖縄こそ、いい迷惑だ。いや、迷惑というより、サキ報道官の表現を借りれば、"outrageous and offensive"ではないのか。

「みんな悪かったんだから、みんな反省していい世界にしよう」みたいな橋下君のお題目は忘れてよろしい。まず日本の深刻な人権状況を振り返って「どうすれば人権を伸張することができるのか」を考えて、それに向かって必死に努力してからでも遅くない。

2013年4月14日日曜日

日本式コーヒー、あるいはコーヒーにおける匠の技

日本式コーヒーをご存知だろうか。

ポットにフィルターをセットし、注ぎ口の細いポットでコーヒーの粉を湿らせて30秒ほど待つ。
粉が十分に湯を含んだところで静かに一投目の湯を注ぐ。
湯温は90度を目安として目的とする味にあわせて温度を調節する。
コーヒーの粉がフィルターの中で形成する壁を壊さないように、数回に分けて静かに湯を注いでできあがり。

あ、それから、飲むときにはブラックで、砂糖も入れないのが日本式(?)だ。

何のことはない、日本では珍しくもないドリップのコーヒーなのだが、これが欧米人の目には何ともエキゾチックに見えるらしい。特に、日本のコーヒー専門店に行くと、一杯ずつペーパーフィルターで入れてくれるのが珍しいらしい。
数年前のニューヨーク・タイムズのコラム、Coffee’s Slow Danceと、この記事を紹介しているThe Kitchenというサイトのコラム、Japanese Slow Brewed Coffeeという文章を読むと、珍しくもないペーパー・ドリップがどうやら実はかなり特異な、しかしちょっとしたコーヒーマニアもうならせるコーヒーの飲み方であることがわかる。
ちなみに日本はアメリカ、ブラジル、ドイツに次ぐ世界第四位のコーヒー消費国だ。

考えてみると、外国で飲むコーヒーは、ちゃんとしたバリスタがいれたエスプレッソを除けば、かなりいい加減なコーヒー、というか、要するに、まずい。どういうことなんだろうと思って調べてみると、外国では日本の専門店のように丁寧にコーヒーをドリップしたりはしないということがわかる。
おいしいコーヒーのいれかた、みたいなキーワードで海外のサイトを検索してみると、ろくなページがない。粉をむらす、なんてことも書いてないし、コーヒーの壁なんて概念もどうやら存在しないらしい。
海外でペーパードリップというと、メリタ式が主流なんだけど、このメリタ式というのは日本で良く見かけるカリタ式と違って、少々細かめに挽いた粉を入れてドバッと全ての量の湯を注いでできあがり、という入れ方をする。最近は円錐形のフィルターも使われているみたいだけど、これも同じように粉を入れて一気に湯を注いでできあがり、という使い方をするらしい。
どこのサイトだったか、ネルドリップの説明がすごかった。

ネルで作った袋に挽いたコーヒーの粉を入れて湯を注ぐ。
以上。

確かに、それでもいいんだけれど、日本人としてはネルドリップというのはドリップコーヒーの極みに位置する方式とされ、素人がむやみに手を出すもんじゃないと思われていたりする。といっても、実際にはペーパーフィルターと基本的には同じなのだけど、ペーパーフィルターの時より湯の通りがいいので、少しずつ湯を注ぐコントロールがちょっと難しい。上手に入れれば、ネルドリップ独特の深いコクのあるコーヒーが楽しめる。

ちなみに、ネルドリップという方式は、かなり歴史が古いらしい。オスマントルコからヨーロッパに入ったコーヒーは、最初のうちはトルココーヒーみたいに粉を濾さずに飲んでいたという。粉が不愉快だと感じたイギリス人が粉を濾すには木綿のフランネルが最適だということを見つけた。
ぼくの勝手な想像に過ぎないのだけど、最初は鍋にコーヒーの粉を入れて煮出し、それをネルで漉していたのではないだろうか。粉を鍋に入れず、ネルのフィルターに入れて湯を注ぐというドリップの発想は、画期的だと思う。鍋で煮だすと、どうしても香りが飛んでしまったり、雑味が出たりする。粉に湯を注ぐことで、コーヒーの香り高いおいしいコーヒーができるわけだ。この時のレシピこそ、「ネルで作った袋に挽いたコーヒーの粉を入れて湯を注ぐ」というものだったんだろう。

その後、ネルの手入れがめんどくさいとか、湯の注ぎ方によって味にばらつきが出ることに注目したのが、ドイツのメリタ夫人。彼女が考案したメリタ式はとても合理的な方法で、粉の挽き目さえバッチリ決まっていれば誰がやっても安定しておいしいコーヒーが飲めるというので世界に広がった。なお、日本でよく見かける三つ穴で側面のリブが長いカリタ式フィルターは、湯が滞留する一つ穴のメリタと違って湯の通りがよく、ネルドリップに近い。そのため、カリタ式では挽き目はメリタ式より粗めで、湯を注ぐ時のコントロールが要求される。
それに対してイタリアでは、 上下の容器を連結して湯が湧いたらクルッとひっくり返すナポリ式のポットがかつては有名だったけれど、20世紀に入って高圧急速抽出という画期的なコーヒーの入れ方が考案されて、モカポット(マキネッタ)や各種のエスプレッソマシンが登場した。イタリア人はケチだけど味にうるさいのでエスプレッソが広がったというが、エスプレッソなら少量の豆でコーヒーのおいしさを完全に引き出すことができると言われる。現在、欧米の高級コーヒーはエスプレッソが主流になっている。
さてアメリカでは、パーコレーターだとかネルドリップやペーパーフィルターが使われていたようだが、その後、便利なコーヒーメーカーの登場で今では手作業で湯を注ぐなんて面倒なことをするよりは、コーヒーメーカーでボコボコと作っちゃうのかもしれない。
余談ながら、アメリカのコーヒー(アメリカン)は、苦味が少ない浅煎りの豆を使うという。これに対して「アメリカーノ」は、第二次大戦でイタリアに進駐した米兵にはエスプレッソが濃すぎて飲めず、湯で薄めたコーヒーだと言われている。
この他、フランス発祥のフレンチプレス、化学実験の道具みたいなサイホン、ジャワを植民地にしていたオランダがジャワのコーヒーを飲むために考案された水出し用のダッチコーヒーの器具など、ヨーロッパにはさまざまなコーヒー器具がある。
まあ、どんな方法であれ、コーヒー豆を挽いて、その粉に湯をかければコーヒーができる。外国人にとって、コーヒーのフィルターなんてのは、粉が口に入ると不快なので、それを取り除くものとしか思われてないのだろう。よく調べれば、それでも海外のサイトにも、フレンチプレスや金属フィルターはコーヒーのオイル分を通すからコクが出るとか、それなりのウンチクを書いてるサイトもあるのだが、フィルターの種類なんかよりはむしろ、おいしさを決める要因としてはコーヒー豆の品質の方に比重が置かれることが多い。

日本式コーヒーは、欧米諸国のように、新しい器具を考案して楽においしくコーヒーを飲もうという発想ではない。ネルやペーパーフィルターといった旧式の方法を使っておいしいコーヒーを飲むための技術を開発し、研ぎ澄まされた匠の技に集中した結果が日本式コーヒーであり、冒頭に書いたような形で定式化された方式で抽出したコーヒーなのだ。
抽出技術をストレートに反映させるには、一度セットしたら触りようがない複雑な器具よりも、ペーパーフィルターのようなシンプルな器具の方が好都合。エスプレッソマシンなんて、バリスタの手が及ぶのは挽き目とタンピングぐらいしかない(というと文句言われそうだ)が、ドリップなら「蒸らし」から湯の量やスピードの配分など、ほぼすべての過程がコントロールできる。同じ豆でもおいしいコーヒーになるか、まずいコーヒーになるかは、ひとえに喫茶店のマスターの抽出技術にかかっているわけだ。

なお前述のダッチコーヒーだが日本ではコーヒー専門店などに置いてあるのを見かけることがある。本来のダッチコーヒーというやつはよく知らないのだけど、一晩かけてゆっくりと抽出する水出しアイスコーヒーも、海外では日本式と言われるらしい。つまり本家のオランダでは、大昔に廃れてしまった方式なのだろう。一滴、一滴と、時間をかけてゆっくりと、丁寧に、というあたりが西洋人には東洋的なエキゾチシズムを感じさせるのかもしれないが、ぼくとしてはあくまでも日本式コーヒーの真髄は研ぎ澄まされたドリップの技術にあると思う。

余談: 抽出法というわけじゃないけど、日本式コーヒーの特徴は「ブラックで飲むべし、この場合ミルクはもちろん、砂糖も入れない」という点と、「純粋なストレートを重んじる、ブレンドは不純な混ぜものコーヒー」というあたりもあると思う。
欧米でブラック・コーヒーというと、ミルクを入れず砂糖だけで飲むコーヒーのことだけど、日本では砂糖も排する。ミルクや砂糖はコーヒーが持つ本来の味を損ない、味がわからなくなるからだ。これはその通りで、コーヒーのカッピングなんかでは当然ミルクや砂糖は入れない。
しかし、これはまあ、好き好きというもので、最終的なコーヒーという飲料をおいしく飲むためにミルクを入れたり、砂糖を入れたり、あるいは先日書いたようにバターを入れたりと、いろんなバリエーションを楽しめばいいのだが、まあ、日本じゃそういうのは「邪道」とされる、ということ。ちなみにぼくは普通コーヒーを飲む時はミルクも砂糖も入れない「日本ブラック」なんだけど、これは好き嫌いというより、いちいちミルクや砂糖を入れるのがめんどくさいから。いい加減な喫茶店でまずいコーヒーを注文する場合、ミルクと砂糖をたっぷり入れて飲んだりする。
ストレート・コーヒーを珍重するのは、これはあまり良い意味ではない日本的な純粋至上主義じゃないかと思う。ヘタなストレート・コーヒーより、しっかりしたブレンド・コーヒーの方が絶対おいしい。ただし、最近は日本にも上等なスペシャルティ・コーヒーが入るようになって、そういうやつだとストレートでもイケるんだが。なお、ストレート・コーヒーと言っても、並みの出荷地の名前がついた「ストレート・コーヒー」は、出荷地であちこちの農園の味が違う豆がごっちゃまぜにブレンドされているので、考え方によっては一種のブレンド・コーヒーなんじゃないかと思う。

2013年3月16日土曜日

ISD条項に関する韓国情報活動家の記事 4

韓国の情報活動家が、Corporate Europe Observatoryによる「不当なことで利益を得る-ローファーム、仲裁者、金融業者が投資仲裁ブームをあおりたてる方法(Profiting from injustice. How law firms, arbitrators and financiers are fueling an investment arbitration boom)」という報告書の内容を韓国語に翻訳して「投資仲裁産業」の主な行為者としてローファーム(仲裁専門弁護士)、仲裁者、金融資本(第三者ファンド)が国際投資体制をいかに維持し、拡大させるかを4編に分けて掲載した記事の日本語訳。原文とは若干違う部分もあり、重訳なので翻訳時のミスもあるかもしれません。報告書の1編2編3編の記事、また必要なら原文もご覧ください。

不当なことで利益を得る(4)

投機金融資本にとってのISDとは?

Byクォン・ミラン/情報共有連帯IPLeft/ 2013年3月11日、10:49 AM

賭博場の掛け金を掛ける者、第三者ファンド

投資仲裁システムは、ますます投機性金融世界と統合されている。第1編で述べたように、国際投資仲裁は政府と投資家ともに高額な費用を要求する。最近はその費用を第三者ファンドから調達する現象が増えている。

第三者ファンド(third party funding)は、ローファームや訴訟の当事者が訴訟ファンド会社から訴訟費用を用意する過程やメカニズムをいう。つまり第三者ファンドは訴訟費用の提供者だ。一般に、第三者ファンドが訴訟の費用を提供した後、訴訟当事者が再判決と損害賠償金を受ければその損害賠償金の一定の割合を得て、裁判で負ければ何も受け取れない。つまり訴訟で負ければ第三者ファンドは何も受け取れずに投資した金を失う。第三者ファンドは、本質的に賭けだ。仲裁過程の費用を返してもらえる保険契約とは異なる。

第三者ファンドはよく知られていないが、Burford Capital(米国)、Juridica(英国)、Omni Bridgeway(オランダ)といった会社が、国際投資仲裁で指定席を得つつある。銀行、ヘッジファンド、保険会社も国際的な紛争に投資をする。請求人と第三者ファンドの間で、互いにショッピングができるように仲介するブローカーと電子市場がますます大きくなっている。

国際投資仲裁で第三者ファンドが急速に増加した最も明白な理由は高額な費用だ。そのために投資家は仲裁申請を躊躇し、それほどの金を持っていないこともあり、長い間、高い費用を払い続けると資産が使えないこともある。

また第三者ファンドが最近増加しているのは、国際的な経済危機にも起因する。投資家は相変らず経済危機の効果を体感し、仲裁過程であまり危険な投資をしないという。二番目の理由は仲裁の結果の不確実性だ。投資家は訴訟で負ける危険を第三者ファンドに移転し、その危険の管理を転嫁することを望む。

最後に、国際投資仲裁の増加と主な仲裁判定の公開により、可能な結果をさらに簡単に予測できるようになったため、若干、不明確性が減少している。

こう喩えるとわかりやすいだろう。掛け金がなければ博打はできない。その上、経済事情があまり良くなければなおさらだ。しかし誰かが掛金をくれる。博打で金が取れば掛け金をくれた人に少し払い戻せばよく、掛け金をすべて失っても返さなくても良い。だが、掛け金を賭けた人にとっても悪くないのは、これまでの傾向を見れば、その賭博場は自分が金を出してやったギャンブラーに有利なイカサマをする博打だったということだ。

国際金融危機で、むしろ常勝疾走

2008年、ウォールストリートのサブプライムローン事態の時に第三者ファンドはむしろ急浮上した。ローファーム、Patton Boggsのパートナー弁護士で第三者ファンド会社のJuridicaとBurfordのコンサルタントもしているJames Tyrrelは、不況の中で主張した。「適当なところを探している多くの金がある」。それで、世界が無謀な出資と信用不渡り、スワップの超過で揺れ動いている間、第三者ファンドは賭けを張る新しい現金流入先を得た。

2007年、Juridicaはロンドン証券取引所を通じ、初期株式公募に1億2千万ドル(8千万ユーロ)を集め、2008年末に国際的な不況が最高潮になった時、1億1600万ドル(7440万ユーロ)を追加で集めた。アイオワ大学のMaya Steinitzは、第三者ファンドの拡張は「ファンドと弁護士が弁護士協会の懲戒範囲の外で活発に行えるように、専門的な規制が実質的になかったため」と評価した。実際に第三者ファンドは「法的荒野(legal no-mans land)」と呼ばれた。

第三者ファンドはどれほどの金を稼ぐのだろうか? 第三者ファンドが受け取る分け前を計算する方法には、初期投資金に何倍か掛け算をする方法もあり、最終賠償金の一定比率を受け取る方法もある。その割合は15%から50%まで多様だ。 最後に、上の2種類の方法を混合する方法がある。最終判決前に合意した場合も第三者ファンドは似た方式で収益を得る。

第三者ファンドの収益は、衝撃的な割合で増加した。Burfordの年次報告書(2011)によれば、2011年度の利益は1590万ドルで、前年比965%増加した。 Burfordが金を出した訴訟のうち9件が2011年に終わったが、期待純益は最低3200万ドルだという。この9件の訴訟に3500万ドルを払ったので、掛け金100円あたり、91円を取ったわけだ。

Burfordは固定投資金として3億ドルを保有しており、1件の投資当りの平均投入額は800万ドルだ。2009年に創立して以来、2011年末までに2億8200万ドルを投資した。Juridicaの年次報告書(2011)によれば、2011年度の利益は1290万ドルで、前年比578%増加した。Juridicaは固定投資金として2億ドルを保有しており、1件の投資当り平均750万ドルを投入する。

何を売るのか?

第三者ファンドがどんな訴訟に金を出すのかを決める方法論については、よくわからない。第三者ファンドの慣行についても明確に知られていない。訴訟請求人と第三者ファンドの間で、どのような内容で第三者ファンド協定を結ぶのかもよくわからない。

だが明らかなことは、第三者ファンドは利益を極大化するために、絶えず新しい商品を開発していることだ。

第三者ファンドは投資家(企業)だけでなく、政府を含む被告のための商品も開発している。Fulbrook Management会長のSelvyn Siedelは、「しばしば、われわれは訴訟をあおっていると非難される。しかし現在、われわれは紛争の双方で働いていると言える」と主張する。

国際投資仲裁件ではないが、シェブロンとエクアドルの訴訟を例にあげよう。 1964年〜1992年にテキサコ(シェブロンが買収)がエクアドルで原油の採掘で水を汚染させ、ガン、障害児出生、小児白血病増加が現れるなど、先住民の健康が悪化した。


シェブロンに抗議する市民

シェブロンに抗議する先住民:www.chevroninecuador.com/201006_01_archive.htmlより

http://okosmos.blogspot.kr/2011/02/ecuadorian-judge-hits-chevron-with-86bn.htmlより

先住民がシェブロンを相手としてエクアドル裁判所に損害賠償請求をした。 Burfordは、2010年11月にエクアドル先住民の代わりに、訴訟資金として400万ドルを出し、1500万ドルまで投資することにした。Burfordのファンド協定によれば、Burfordが1500万ドルを出し、原告が10億ドルの賠償を受け取れば、Burfordは5500万ドルを受け取り、原告が20億ドルの賠償を受け取れば2倍の1億1100万ドルを受け取ることにした。これで終わりではない。原告が10億ドル未満(最低6950万ドルまで)の賠償判決を受けた場合、Burfordは同じように5500万ドルを受け取ることにした。つまり6950万ドルの賠償判決があれば、Burfordは5500万ドルを受ける。

これは賠償金の80%だ。残りの20%は金を払った他のファンドに行くので、先住民が取る金はない。できるだけ多くの賠償金を取れなければ、ほとんど先住民に残らない。

2011年にエクアドルの裁判所は、シェブロンに86億ドルを賠償するよう判決したが、これを受け取れるかどうかはわからない。シェブロンは繰り返し控訴すると同時に、ISDも申請をした。Burfordは最近、この訴訟についての契約を他のファンドに売ったという。

ある第三者ファンドは仲裁の戦略と運営について、さらに大きな影響を及ぼす「より少なく消極的なビジネスモデル」を開発している。オランダの第三者ファンドのOmni Bridgewayは、専門家の証人選択と真相調査任務を含む「オーダーメード・コンサルティング」をしており、仲裁の過程で「単なる金ではなく技量を倍加」させるサービスを提供したいという。

また、Selvyn Seidelは「われわれはまた、請求人と弁護士の能力を倍加させる支援サービスの提供を始めた。われわれは自らを弁護士、金融業者、銀行家、会計監察官の統合的なグループだと考えたい」と話した。

その上、第三者ファンドは派生商品も開発している。Selvyn Siedelは「私たちが考えている別の商品がある。訴訟全体より訴訟の一部に資金を出し、ミニ・ポートフォリオのように5〜6件の訴訟に分散投資する派生商品だ。訴訟に資金を出した後に、信用不渡りスワップ(credit default swaps)のように、第三者にそれを転売できる可能性もある」とその輪郭を示した。投機金融資本はよくわからず、Selvyn Siedelの話はよくわからないが、第三者ファンドがますます投機性が大きい方向に進むことは明らかだろう。

第三者ファンドに隷属する仲裁過程

無法天下の第三者ファンドへの規制が必要だという批判が提起されている。全米商工会議所は、金儲けに血眼になっているこうした投資会社が訴訟に不適切な影響を及ぼすと批判した。Burfordの最高経営者のChristopher P. Bogartは、仲裁過程に影響を及ぼす意図ななく資本を提供する消極的な投資家だと言うが、そうではない。

仲裁請求人(投資家)は、自分の利害関係を管理しなければならないだけでなく、第三者ファンドの利害関係もまた管理しなければならない。仲裁請求人の弁護士には、自分の受託料を払う第三者ファンドの影響を受けかねないという恐怖がある。したがって、第三者ファンド協定のために、仲裁手続きが第三者ファンドと投資家間の関係に隷属しかねない。

ところで、第三者ファンドと投資家と弁護士の関係は、第三者ファンド協定上の契約的関係より、はるかに重なっているようだ。第2編と第3編でローファームと仲裁者の緊密な関係に言及したように、第三者ファンドも投資仲裁コミュニティの「門番」として、国際仲裁システムに重要な影響を及ぼす。第三者ファンドはコンサルティングを行い、代案を提示して、ローファームをリードしたり、誰が仲裁者で選任されるのかについても影響を及ぼす。

第三者ファンドと仲裁者、弁護士、投資家(企業)をつなぐ対人関係の網を形成しているCalunius CapitalのMick Smithの例を見よう。

Smithは現在、Calunius Capitalの会長だ。その前はローファームFreshfieldsで働いていた。彼は「そこで結んだ関係は相変らず重要で、彼らは私の第1の寄港地だ」と話したように、彼が元の同僚と親密な関係を維持したことから利益を得ている。

Rusoroがベネズエラ政府にISDを提起するためにファンドを探していた時、Caluniusはカードをつかんだ。Rusoroはカナダに本社をおくロシア資本の鉱業会社だ。2011年8月17日、ベネズエラのチャベス大統領が金鉱山の探査と開発を国有化すると発表した後、同年9月に金産業を国有化する法律が公布された。 Rusoroは、資産の移管および補償についての協議を始めたが、うまくいかず、2012年4月に操業を完全に中断した。

2012年7月にRusoroは、カナダ・ベネズエラ二国間協定を根拠としてICSID(国際投資紛争解決センター)に仲裁申請をした。ローファームのFreshfieldsがRusoroを代理し、Calunius CapitalがRusoroの仲裁費用を提供することになった。

Smithのケースは例外ではない。2011年に創立した訴訟ファンド会社のBlackRobe CapitalとFulbrook Managementは、どちらも元弁護士が運営する。 現在の、Fulbook Managementの会長でBurford Capitalの共同創立者であり、Latham&Watkinsのパートナー弁護士だったSelvyn Seidelの履歴からわかるように、仲裁専門弁護士と会社は強い関係を維持している。彼はそうした関係が「私たちに大きな助力をしてくれたし、われわれは国際仲裁を助けることで彼らに寄与することを望む」と話した。

現在BlackRobe Capitalの共同創業者で、その前はBernstein Litowitzのパートナー弁護士だったJohn P. Coffeyは、「私の元の同僚たちから投資機会が殺到した」、「普通、トップ25のローファームから要請がくる」と話した。 Burfordも主要ローファームと企業での訴訟管理経験がある人々で構成されていると自己紹介している。こうした閉じたネットワークは、仲裁者の能力、仲裁手続きの公正性と透明性において、疑問がある。実際にあるファンドとローファームは、部分的に、あるいは全体的に同じ側に属している。

これだけでなく、第三者ファンドと投資家間の関係によって、紛争の過程が延長、または短縮され、仲裁の過程に否定的に影響を及ぼすことがある。こうした例はS&T oilとルーマニアのISDで見られた。第三者ファンドのJuridicaが払っていたS&T oilの費用を中断したことで、ISD仲裁手続きが続けられなくなった。結局は、Juridicaが金を払い、さらに2年間の仲裁手続きが進められた。 ルーマニア政府としては、2年間の仲裁費用をさらに押し付けられた形だ。

軽率な仲裁申請が増加

二つ目の批判は、第三者ファンドが国際投資仲裁の数を増やすことができるという点だ。全米商工会議所が雇った弁護士のJohn H. Beisnerは、第三者ファンドが軽率な訴訟を奨励すると昨年に下院で述べた。オーストラリアの場合、全般的に第三者ファンドを自由化した後、訴訟が16.5%増加したと推測されている。

掛け金がなければ賭けはできないが、第三者ファンドが掛け金を払うことで、潜在的に投資紛争の数が増える。さらに軽率で危険が大きい訴訟になるほど、第三者ファンドのポートフォリオ投資の価値を上げることになる。「損失の恐怖への危険から逃げれば、ポートフォリオの潜在的なパフォーマンス(積極的に投資し、短期間に最大の収益を追求する投資)を極大化させることはできない」とBurfordグループが指摘したようにである。

われわれの選択は?

報告書「不当なことで利益を得る-ローファーム、仲裁者、金融業者が投資仲裁ブームをあおる方法(Profiting from injustice. How law firms, arbitrators and financiers are fueling an investment arbitration boom)」の内容を翻訳し、「投資仲裁産業」の主要行為者としてのローファーム(仲裁専門弁護士)、仲裁者、金融資本(第三者ファンド)が国際投資体制をどのように維持し、拡大するかを4編にわたり伝えた。

そしてこの報告書は、最後に仲裁手続き内外で私たちが選択できるいくつかの方法を提示しているが、紹介しないことにしよう。世界が仲裁機構によるキャッシュディスペンサーのように扱われ、仲裁判定の結果が国際的に執行される世界に対し、どんな選択ができるのかは私たちが考えるべき部分なので、いくつかの国での努力を紹介して文を終えよう。

今年1月、インド政府は二国間投資保護協定に関するすべての交渉を保留することにした。昨年、企業が投資協定によるISDの通知が頻発したため、将来、さらに多くのISDが乱発されかねないという恐れを感じた財政部と商工部が、投資協定モデルを再検討するまで、すべての投資協定を保留することにしたのだ。

2011年の春にはオーストラリア政府は、今後、これ以上の貿易協定にISDを入れないと発表した。

ISD爆弾を受けた南米は、もっと積極的な代案を模索している。ボリビアは2007年に、エクアドルは2009年に、ベネズエラは2012年1月に、国際投資紛争解決センター(ICSID)から脱退した。

そして南米国家連合(UNASUR. 2008年に発足した南米国家共同体. ボリビア、ブラジル、チリ、コロンビア、エクアドル、パラグアイ、ペルー、ウルグアイ、ベネズエラ、スリナム、アルゼンチン、ガイアナが参加)は、代案的な仲裁機構についての議論をしている。

2009年6月にエクアドルは、ICSIDを代替する代案的な仲裁センターの創設を提案し、2010年12月にUNASUR会員国の外務部長官が仲裁センター紛争解決システムの作業班の議長として、全員一致でエクアドルに決めた。エクアドルは仲裁センターの規則についての提案書を提出し、UNASUR紛争解決システム委員会はその提案を調整しており、今後、会員国が検討することになる。

UNASURの12の会員国のうち9か国が受けたISDは、ICSIDに提起されたものだけでも111件になる。これはICSIDの仲裁全体の31%を占めている。

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ISD条項に関する韓国情報活動家の記事 3

「不当なことで利益を得る(1)」「不当なことで利益を得る(2)」の続編、その3です。

不当なことで利益を得る(3)

ISDの守護者、仲裁者クラブ

By クォン・ミラン/情報共有連帯IPLeft / 2013年2月20日、4:32 PM

最近、ローンスターと韓国政府が仲裁者を選任した。ローンスターが仲裁者に指名したチャールズ・ブロワー(Charles Brower)は、2005年までの37年間、米国のローファーム、ホワイト・アンド・ケース(White&Case)に在籍し、この報告書が選定した国際仲裁市場を牛耳る仲裁者の2位に選ばれた人物だ。

ブロワーは、これまで知られている450件のISDのうち33回仲裁人に指名され、このうち94%は投資家により指名された。続けて韓国政府も仲裁者にブリジット・スターン(Brigitte Stern)を選任したという。ブリジット・スターンは、この報告書が選定した仲裁者の1位だ。この報告書は仲裁者が決して中立的でないどころか、企業に好意的な投資仲裁システムを作るパワーのある行為者になる理由を暴露している。

仲裁「マフィア」

仲裁者たちは、あまり世の中に知られていない。だが仲裁者は互いをよく知っている。学界とジャーナリスト、そして内部の人たちは、彼らを「小さくて、秘密っぽく、クラブ風の」、「インナーサークル(inner circle)」あるいは「仲裁『マフィア』」と描写している。クラブを小さく維持することは、仲裁者が投資仲裁システムをしっかり捉えていることを意味する。

匿名の国際法研究者によれば、似た価値、似た教育、似た観点でまとまった小さなコミュニティが維持されるため、投資仲裁システムが見えないという。彼によれば、仲裁システムの動き方についての仲裁者間の一貫した観点は、仲裁システムの生存に必須だと彼は主張する。だから仲裁者たちは「そのシステムを守る役割を果たす」のである。

この報告書では、これまでに知られている450件のISDを担当した仲裁者が誰なのか、投資家が要求した賠償金額がいくらなのかを調査した(最終的に判定された賠償金額は分からないことが多い)。仲裁をした件数が多い順に15人のエリート仲裁者を選定した(下表参照)。単に15人の仲裁者が今までに知られている450件のISDのうち247件(55%)を担当した。圧倒的に集中している。

そして、2003年から2010年に提起されたISDのうち、投資家が請求した賠償金額が1億ドル以上の事件を調査して順位を付けた。2010年までのISDで、一番高額な賠償金を請求したのは、エネルギー会社のYukos、Hulley、Veteran Petroleumがロシアを訴えた訴訟だ。1036億ドルを請求した。次はConocoPhillipsがベネズエラに300億ドルを請求した。

15人のエリート仲裁者たちは、1億ドル以上の賠償金が請求されたISD 123件のうち79件(64%)を担当し、40億ドル以上の賠償金が請求されたISD 16件のうち12件(75%)を担当した。賠償金が大きいISDほど、15人のエリート仲裁者に集中していることが分かる。


図1

投資仲裁システムの生存は、相互にとても強い凝集力でつながった小さな仲裁者クラブ次第だと言える。15人のエリート仲裁者たちは、皆少なくとも1回は同じ訴訟で他のエリート仲裁者と共に仲裁判定部を引き受けた。15人のエリート仲裁者が共に仲裁判定部を担当したISDは69件あった。

Marc LalondeはFrancisco Orrego Vicunnaと5回、同じ仲裁判定部を引き受け、L Yves FortierはStephen M. Schwebelと5回同じ仲裁判定部を引き受けた。Brigitte SternはMarc Lalonde、Gabrielle Kaufmann-Kohlerとそれぞれ5回ずつ同じ訴訟で仲裁判定部を引き受けた。その上、ローンスターと韓国政府が選任した仲裁者のCharles BrowerとBrigitte Sternは、4件のISDを共に引き受けた。場合によっては3人の仲裁判定部を15人のエリート仲裁者に入る人が引き受けた。こうしたケースは15件もあった。

このうち、3人の仲裁判定部とどちらかの代理人が15人の仲裁者に入っているケースは7件ある。代表的な例としては、歴代最高の賠償金1036億ドルを要求したYukos、Hulley、Veteran Petroleumとロシアとの訴訟で、仲裁者パネルはYves Fortier、Daniel Price、Stephen M. Schwebelだ。Emmanul Gaillardは投資家を代理した。

ロシアは2002年までエネルギー産業民営化を推進し、2003年5月に「ロシア エネルギー戦略:2020年まで」を発表し、エネルギー産業に対する国家統制を強化して、大企業形態の国営エネルギー会社の育成計画の下で、2004年から民間企業による運送パイプライン建設を禁じ、外国系会社の持分を49%までに制限した。

こうしたロシアのエネルギー戦略の実行の過程で、2003年に当時ロシアで1位のエネルギー企業だったYukosの会長が、脱税や横領で拘束され、2004年には未納税額のためにYukosの資産が押収されて競売が行われた。

これに対し、Yukosの株式を持っていた3つの企業は2005年、ロシアを相手にエネルギー憲章条約を利用してISDを提起した。3つの企業を代理したローファームのShearman &Sterlingが発表した依頼人機関誌「ユーコス:エネルギー憲章条約に対する歴史的な決定(Yukos:landmark decision on the energy charter treaty)」によれば、ロシアは1994年にエネルギー憲章条約に署名したが国内批准をしておらず、2009年8月にエネルギー憲章条約の会員国にならないと発表した。しかし仲裁判定部は2009年11月30日、Yukosなどがエネルギー憲章条約を利用してISDを提起することを認めると判定した。

同じISDで、仲裁と代理を同じローファームが担当したケースもある。特に、このような場合はISD制度の公正性を問うこと自体が無意味だ。Bayindir Insaat Turizm Ticaret Ve Sanayi A.S.とパキスタンとの訴訟で、Essex Court Chambersに所属するStephen M. Schwebelが企業側を代理し、同じ所属のKarl H Bockstiegelは3人の仲裁判定部の1人になった。同時に所属が同じ2人の弁護士が、パキスタン政府を代理した。

Chambersはローファームではなく、いわゆる自営業者弁護士の「職務共同体(office community)」と言えるので問題にはならないと主張するが、HEPとスロベニアとの訴訟で国際投資紛争解決センター(ICSID)の仲裁判定部は、仲裁判定部議長のDavid A.R. Williamsと、スロベニアが代理人に選定したDavid MildonがEssex Court Chambersに所属しているため、スロベニア政府はDavid Mildonに弁護を任せられないと決めた。

仲裁者の多くの地位

仲裁者は、弁護士、あるいは専門家として、証人としてISDに直接参加したり、政府の代表者や諮問を引き受けて政策に影響を与え、学界で問題を提起し、企業の代わりにロビイストとして活動したり、企業の理事会に参加する。これにより彼らは投資仲裁システムを維持し、利益を得る。こうしたことは、仲裁者にとっては平凡なことだ。

ローンスターと韓国のケースも同じだ。韓国政府の代理をしたアーノルド・アンド・ポーターのジーン・カリッチ(Jean Kalicki)とローンスターを代理したシドリー・オースティンのスタニミール・アレクサンドロウ(Stanimir Alexandrow)は、有名な仲裁者でもある。

この分野でとても華麗な履歴を持つ人を紹介しよう。ダニエル・プライス(Daniel Price)だ。プライスは典型的な投資仲裁チャンピオンではないが、一番多くの地位についた仲裁者を選べと言えば、当然プライスが1位だ。

投資協定交渉家、ISDを擁護する企業ロビイスト、企業の利益を防御するコンサルタント、新自由主義を促進するメディア解説者、仲裁者、これらはすべて彼の履歴だ。プライスは過去20年間、何回も回転ドア人事を経験した。プライスは、自分が交渉を促進した投資協定の受恵者だ。米貿易代表部の責任法務諮問委員になり、米露BIT(1992年署名)の交渉をした。彼はもまたNAFTAの投資保護条項について交渉した。彼は投資家-国家訴訟条項を考案し、企業にこの条項を利用して政府に対する訴訟を要求した初の米国弁護士の1人として知られている。

1992年、彼は初めて政府の要職から離れた。彼は投資仲裁産業に無限の利益を創出する可能性を見つけ、その産業を発展させることにした。2002年から2006年に、彼はメキシコ政府を相手にアリアンツ(Fireman's fund insurance)の代理となった。訴訟の間、アリアンツのためにホワイトハウス、米貿易代表部、国務省、商務省にロビーを行った。

また、モンサント、国際投資機構、米国の製薬会社と生命工学会社のためのロビイストとしても活動した。Yukosなどがロシアを相手にISDを提起した2005年から、ホワイトハウスの招請を受ける2007年まで、Yukosが指名する仲裁者だった。

プライスは米国のローファーム、Sidley Austinで国際投資紛争解決担当部で議長として4年間活動した後、2007年にジョージ・ブッシュ大統領の高位級の経済諮問を担当し、また米政府に戻った。

2008年に国際経済危機が頂点に達した時、彼は解決の方向性についての論争に影響を与える位置にあった。彼はG8(東京)でブッシュの特別代表を引き受け、2008年にワシントンで開かれた初めてのG20首脳会談を陣頭指揮した。G20は「私的財産の尊重、貿易と投資開放、競争的市場を含む自由市場の原則について約束すれば、われわれはこの改革が成功するだろうということを認める。開発途上国を含み、われわれは経済的成長に害を与え、資本の流れを悪化させる規制を避けなければならない」と話した。まさにプライスが支持してきた措置だ。

彼は2009年にローファームのSidley Austinに戻り、2011年にまた辞めた。彼はビジネスコンサルタント会社のRock Creek Global Advisorsと独立の法律業務の両方を始め、企業との関係を振興させる計画だ。彼は自分を中立的仲裁者と言い、企業に対し政府の規制を避ける方法についてコンサルティングをする。

投資協定に署名すること

誰もがご存知の通り、投資協定のISDでは、政府に訴訟をすることができるのは企業だけだ。仲裁専門弁護士や仲裁者にとって、この言葉は投資協定がなければ訴訟もなく、訴訟がなければ仲裁者や代理人には選任されないということを意味する。したがって、投資仲裁産業を成長させるには投資協定の締結を要求することが必須だ。

1990年代にJan PaulssonはNAFTA協定11条(投資保護)の交渉でメキシコ政府の諮問をした。そして彼は企業がメキシコ政府に提起した2件のISDで、仲裁判定部を引き受けた。Emmanuel Gaillardは政府の諮問は引き受けなかったが、2010年にモーリシャスで開かれた公開カンファレンスを活用して、モーリシャス政府が投資協定に署名するように奨励した。米政府を代表して、NAFTA11条(投資保護)の交渉を率いたDaniel Priceは、当時メキシコ政府がISDを受け入れるように積極的に圧力を加えた。その結果、メキシコ政府は別名Calboドクトリンと言われる原則-国内裁判所だけが外国人投資家が提起した訴訟の司法権を持つ-を捨てた。Calboドクトリンは、メキシコ憲法の一部だった。その後、プライスは米国企業のTate&Lyle Ingredients AmericasとFireman's fund insurance(アリアンツ)がメキシコ政府に対して訴訟をした時、これらの企業の代理をした。

曖昧な規則、さらに多くの訴訟

前編で言及したように、仲裁機構は特別な仲裁基準や規則は持っていない。投資協定文だけが根拠だ。したがって、投資協定の条項が曖昧であるほど、正確性が低いほど、企業が訴訟をする機会が多くなる。

国連国際貿易法委員会(UNCTAD)は「国際投資協定の条項は、厳密に表現されていない」と指摘した。その結果、投資協定の曖昧な規則を仲裁者がいかに解釈するかに全てがかかっている(UNCTAD 2011)。規則が曖昧なほど、仲裁者の役割が重要になる。

投資家にとって、公正かつ平等な待遇を提供する政府の義務(fair and equitable treatment、公正衡平待遇と呼ばれるようになる)はISDの重要な理由として登場した。

国連国際貿易法委員会(UNCTAD)によれば「投資家が訴訟を提起するとき一番よく依存し、最も成功的な根拠になっている」この条項は、一番質が低く、不明確な条項の一つだ。また、仲裁者が「公正で平等な待遇の概念を広く解釈してきた」と指摘し、「結論は、限りなく不均衡的な接近になる。投資家の利害を擁護し過ぎている」と結論した(UNCTAD 2012)。

2010年5月までに結果が公開されている140件のISDについての統計研究(2012)で、Gus Van Harten教授は仲裁者たちが投資概念、法人投資家、少数株主権、併行訴訟といった問題について、請求人(投資家)に都合がいいように拡大解釈する傾向が強いことを確認した。また仲裁判定では、投資家の国籍が強く作用する傾向を確認した。投資家が米国、英国、フランス、ドイツ国籍であれば、仲裁者は拡大解釈する傾向を見せた。

仲裁者が投資家の代理になる時も同じだ。NAFTA協定によるFireman's fund(アリアンツ)とメキシコの訴訟で、投資家はメキシコ政府が財政的投資を収用したと主張した。これは、メキシコ政府が1997年の金融危機の時に取ったエネルギー措置の結果だった。この訴訟の判定では、NAFTA協定受け入れ条項の解釈が決定的だった。噂によれば、投資家の代理をしたDaniel PriceとStephen M. Schwebelは「収用」が財産権の没収概念より広い方式で解釈されるように主張する82ページの報告書を提出した。

しかし仲裁者たちは、人権と社会権についての国際法の接近は制限的だ。2012年5月にヨーロッパ憲法と人権センター(ECCHR)は、ジンバブエに対して提起された2件のISDについて仲裁判定部に声明書(法廷助言)を提出しようとした。木材農場に関する訴訟だったが、ヨーロッパ憲法と人権センター(ECCHR)は紛争中の農場は先住民の先祖が住んでいた区域にあるとし、裁判の結果が土地に対する土着共同体の権利に影響すると主張した。

Yves Fortierが議長になった仲裁判定部はこうした憂慮を聞くことも拒否した。国際司法裁判所判事のBruno Simmaは、「経済的、社会的権利を考慮することは、投資家国家仲裁では例外」だと指摘した。

投資協定の改革を防ぐこと

ローンスターが選任した仲裁者のCharles Browerが「国際仲裁の基本的な要素を変えるいかなる提案も、仲裁機構には受け入れられない攻撃になる。反対に、こうした基本的な要素を強化する提案は、注意深く考慮されるべきだ」と言う程、投資仲裁システムの変化に反対する。

前編で、リスボン条約の発効後、ヨーロッパの投資政策について仲裁専門ローファームと有名な仲裁者が影響を及ぼす方法について言及したが、米国でも似たようなことがあった。

NAFTA協定の下でカナダの企業から、何回も訴訟にあった米政府が、2004年に1994 BITモデルを修正し、新しいBITモデルを導入した。2004 BITモデルは、米政府が特に保健と環境の領域で統制権を発揮できる政策空間が若干導入されたが、期待できるようなものではなかった。

米政府で要職に付き、20年間国際司法裁判所の裁判官を歴任した有名な仲裁者のStephen M. Schwebelは、こうしたささいな変化さえ非難した。米国を代表して投資協定の交渉をしたDaniel Priceも反対した。最も有名な仲裁者のひとりであるWilliam W. Parkは「こうした政策の変化は問題が多く、海外の米国投資家に相当な被害を引き起こすだろう」と話した。

そして2009年にオバマは大統領候補として、労働と環境に対する義務を強めるために2004モデルを再検討することを約束した。だが2012年に出された新しいBITモデルは、実質的な変化はなかった。2012年5月8日のTPP(環太平洋経済パートナー協定)交渉のために時を合わせて発表されたものだという。

主な変化は、これまでのISDに対する批判を反映させ、投資により「労働と環境」を傷つけないようにすること、「将来は控訴制を導入」してISDの透明性と公正性を強化することだ。だが3人の仲裁者が下した決定により、政府が損害賠償をする構造には変わりはなく、投資家が損害を受けないように国家主導経済を制限したため、実効性については批判的がある。当時、米国政府の諮問委員会の一員だったStephen M. Schwebelは、1994年モデルに戻すことを支持した。

最近では南米国家連合(UNASUR)が、国際投資紛争解決センター(ICSID)に代わる仲裁センターの建設を議論している。エクアドルのコリア大統領は、南米が自主的に紛争解決機構を創立することを提案し、ベネズエラのチャベス大統領もエクアドルの提案を支持している。チリ出身の有名な仲裁者、Francisco Orrego-Vicunaは、「非常に投資家親和的と見なされるICSIDのような機構を代替するという提案は良いアイディアではないと思う。なぜなら、そんな機構はほぼ確実に非常に政府親和的と認識されるだろうし、投資家は満足しないだろう」と主張した。

一方、投資仲裁システムに対する批判が強まっていることで、エリート仲裁者たちは現システムの基本には触れず、妥協する方案を探している。例えばWilliam W. Parkは、政府の統制がきく政策空間を回復させる立場をある程度受け入れ、「さもなくば投資家国家仲裁は投資家の勝利に反発する大衆的な圧力の犠牲になりかねない」と指摘した。

Honatiauはもっと直接的だ。彼は仲裁システムのすべての参加者の役割を再検討し、システムの作動方式の変化を受け入れる必要性を認め、「こうした代価を払うことによってのみ、数十年間、仲裁者は国際的な取り引きの「天賦の裁判官(natural judge)」として残ることができる」と話した。

Jan Paulssonは仲裁機関がさらなる透明性を持つために、紛争当事者が仲裁者を選任せず、仲裁判定部全体を選任するべきだと提案したが、仲裁システムの投資家に親和的な偏向については触れない。彼は国連の国際貿易法委員会(UNCITRAL)の規則に透明性の条項を入れる試みを阻止しようとするバーレーン代表を防御した。Charles Browerは仲裁コミュニティが「システム全体の根本的な再設計を要求しない」程度の大きさの改革だけしか受け入れる準備ができていないと指摘する。つまり、小さな改正を受け入れることで仲裁システムの構造的な変化を未然に防ぐのである。

原文(レディアン)

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2013年2月28日木曜日

ISD条項に関する韓国情報活動家の記事 2

ISD条項に関する韓国情報活動家の記事 「不当なことで利益を得る(1)」の続編、その2です。

不当なことで利益を得る(2)

仲裁専門ローファーム、「彼らだけのリーグ」

[情報共有と知的財産権]「ISD提起の威嚇」だけで政府の政策が挫折

Byクォン・ミラン/情報共有連帯IPLeft/ 2013年2月4日、11:35 AM

昨年、ローンスターがISDにより韓国政府に約2兆4千億ウォンの損害賠償金を請求したという。このとてつもない訴訟を代理するローファームが選定された。 ローンスターと韓国政府(法務部)は、国内の法務法人としてそれぞれ世宗(セジョン)と太平洋(テピョンヤン)を選定し、海外のローファームとしては米国のローファームのシドリー・オースティン(Sidley Austin)とアーノルド・アンド・ポーター(Arnold&Porter)を選定したという。

シドリー・オースティンとアーノルド・アンド・ポーターは、2011年に一番多くのISDを手がけた投資仲裁専門ローファーム上位20位の5位と6位を占めた(下表参照)。今回は、これらのローファームが投資仲裁産業の成長のために何をしているのかを調べてみよう。研究報告書「不当なことで利益を得る-ローファーム、仲裁者、金融業者らが投資仲裁ブームをあおる方法(Profiting from injustice. How law firms、arbitrators and financiers are fueling an investment arbitration boom)」によれば、次のように要約できる。

  • 他の仲裁専門弁護士、仲裁者、資金提供者、学者と友人になれ
  • 政府公務員をスカウトしろ
  • 仲裁者になれ
  • ビジネスを創り出せ。戦争、経済危機、政治的変化に注目しろ。多国籍の依頼人にISDはそうした激変で金を稼げることを納得させろ。 
  • 「投資協定ショッピング(BIT-shopping)」をして、同じような事件で併行訴訟を追求しろ。
  • 政府を脅せ。訴訟の威嚇は政府が進んで諦めたり合意させる。
  • タダで貧しい政府の力量を強化させろ。みんな潜在的な依頼人だ。
  • 投資協定の改革に反対してロビーをしろ。
  • 投資仲裁システムを保護しろ。 

こうしたローファームの行為をこの報告書は「救急車を追いかける弁護士(ambulance chaser)」に例える。これは19世紀末に(交通)会社と被害者に訴訟を誘導し、金を稼いだことから出てきた表現だ。今日、これはグローバルだ。 カナダのヨーク大学(York University)のオズグッド・ホール・ロースクール(Osgoode Hall Law School)のグス・ヴァン・ハートン(Gus Van Harten)副教授は、「仲裁専門弁護士は、単に救急車を追う追撃者ではなく、仲裁者を兼ねて事件を作り出す」と話した。

緊密なコミュニティ、巨大なビジニーズ

国際的には3つのローファームが投資仲裁ビジネスを主導している。英国のフレッシュフィールズ(Freshfields Bruckhaus Deringer)、米国のホワイト・アンド・ケース(White&Case)とキング・アンド・スパルディング(King&Spalding)だ。 Freshfieldsは今までに165件以上のISDを担当した。2011年には3つのローファームが130件のISDを担当した。新規ローファームの進入は難しい市場だ。

ある弁護士は、ICSID(国際投資紛争解決センター)に提起された30件の訴訟のうち25件がヘビー級に行くと推測している。投資家から訴訟を受ける国家、つまり非西欧国家のローファームにはほとんど参加する機会もない。

仲裁専門弁護士は投資仲裁コミュニティの「門番」になって、緊密にコミュニティを維持している。この小さな弁護士グループは、仲裁者とコンサルタント、専門家、証人を行き来して、さまざまな役割を果たす。この小さなグループの中で、仲裁判定部は仲裁専門弁護士を知り、弁護士は仲裁判定部を知る。

仲裁者と弁護士を兼ねることは何回も問題になったが、相変らず認められている。仲裁者となる25人の弁護士がいるFreshfieldsは、この市場を主導している。 また、仲裁専門弁護士はコンサルタントとしても大活躍をしている。

ゲームの不文律を知る者は別にいる

ローンスターが勝つか、韓国政府が勝つか。その答はしばしば仲裁者になってきた英国のローファーム、Herbert Smith FreehillsのMatthew Weinigerに関する大学の講義から知ることができる。彼は国際商業裁判所(ICC)が作った薄い小冊子と英国の法廷規則の2冊を比較して「成文化されていない内容がこれほど多い。 この内容を知っているのが仲裁専門弁護士だ」と学生に説明した。

私たちが仲裁判定の結果が正しいかどうかを確かめる基準になりそうなものは存在しない。数千億ウォンから数兆ウォンにのぼる賠償金がかかる訴訟を全的に仲裁専門弁護士に依存しなければならず、彼らが多額の受託料を受け取るのは当然ではないだろうか?

降参しろと脅すこと

ISDは投資家にとって政治的な武器だ。バッテンフォールとドイツのISDに関与したローファームのLutherは、「すぐありそうな投資協定訴訟の影の下では、解決に到達するのはやさしい」と言う。ISDを提起するという脅しや仲裁意向書を通知するだけで、政府の保健、環境政策などを挫折させた事例は多い。

代表的な例が超国籍タバコ会社からの脅迫で、カナダ政府が進んで禁煙政策を放棄したことだ。NAFTA協定の発表から5年経った時、カナダのある元公務員は「この5年間、新しい環境規制と提案をすると、ニューヨークのローファームから手紙が送られてきた。農薬、医薬品、特許法、ドライクリーニングの化学薬品に関するものだった。事実上、すべての新しい試みがターゲットにされ、ほとんどは陽の目を見なかった」と話した。こうした「予防戦争(pre-emptive strike)」はますます増えるだろう。

BIT(二国間投資協定)ショッピング

仲裁専門弁護士は、最も投資家親和的な協定を選ぶ。別名『二国間投資協定ショッピング(BIT shopping)』だ。超国籍企業は同じ事件に対し、さまざまな投資協定を利用して、同じ政府を相手に何回も訴訟をすることができる。

最も有名な事件の一つが米国の化粧品会社、エスティ・ローダー(Estee lauder)の相続者であるRonald Lauderが米チェコBITとオランダ・チェコBITを利用し、立て続けにISDを提起したことだ。前者は棄却されたが、後者ではチェコは利子とともに保健予算総額にあたる2億7千万ドルを支払うよう命令された。

特にオランダは多くの投資協定を締結しており、「協定ショッピングの出入口(gateway for treaty-shopping)」として有名だ。アムステルダムに基盤をおくローファームのDe Brauwは、オランダを「通じて」、開発途上国とエネルギーが豊富なところに投資しろと国際的に広告を出す。米国のローファーム、Baker McKenzieはオランダにある仲介会社を通じ、中国に投資をしろと依頼人に広告をする。

なぜなら米中投資協定はないが、オランダ・中国の投資協定があるためだ。 オーストラリア政府が2011年4月、今後の協定にはISDを入れないと発表すると、英国のローファーム、Clifford Chanceはまだ外国政府に訴訟をしたがるオーストラリアの企業に「とても人気がある選択」としてオランダを提案した。

増える新しい依頼人、政府を教える

仲裁専門ローファームは、政府が投資協定の交渉をして協定草案を作る時にコンサルティングをして、政策を実行するにあたり、投資訴訟の危険の処理についてもコンサルティングをして、ISDについて教育をする役割もする。

スイスのローファーム、Laliveは、開発途上国の力量強化のための国連機構UNITARのために、投資仲裁について定期的なオンライン教育コースを運営している。貧しい国家の公務員はスカラーシップにより無料で教育を受ける代わりに、ローファームのLaliveは潜在的な新しい依頼人リストを得るわけだ。2011年11月にカナ、ザンビア、リベリア、南アフリカ共和国、ウガンダ、エジプトから来た12人の政府側弁護士が、投資法と仲裁について一週間の訓練を受けた。 この訓練は、Salans、Hogan Lovells、Volterra Fietta、Allen&Overyなどの国際的な大型ローファームがトレーナーを提供し、後援した。

投資協定と仲裁システムの変化を防ぐ

2009年12月、リスボン条約の発効後に、ヨーロッパはいつよりも投資協定に対して論争が続いている。その理由は、まず、リスボン条約が発効するとFTAやBITなど、すべての貿易協定は個別会員国が批准せず、ヨーロッパ議会の批准手続きだけ通れば発効するためだ。二番目は、EUの排他的権限領域がサービス、知的財産権と海外直接投資(FDI)にまで拡大したためだ。

特に、投資部門をEUの排他的権限としたことで、今後EU次元の投資協定を締結する法的装置ができたが、投資政策についてのEU次元の排他的管轄権が完全に確定したわけではない。これによりEUは、共同の投資政策が必要な状況になり、会員国はすでに締結した、あるいは会員国の間で締結されたBITとの関係をどうするのかを決定しなければならなくなった。

2010年7月にヨーロッパ執行委員会は、共同投資規定を立案するための方向を提示する報告書「包括的な国際投資政策の方向(Towards a comprehensive European international investment policy)」で、すでに締結された個別のBITとの過渡的な両立を認める暫定的措置についての規定を提出した。

暫定的措置の内容は、会員国が第三国と締結したBITと、会員国間で締結したBITを存続させるが、EUの法律と合わせて再協議をしなければならず、現在進行中のBIT交渉を続けるということだ。

ヨーロッパの労組と市民社会グループは、長い間、会員国のBITについて整備を要求してきた。具体的にはISDをなくし、投資家に義務を賦課して、さらに正確かつ制約的な表現で投資家の権利を明確にし、政府の統制権をはっきりさせることなどだ。

ヨーロッパ議会が2011年4月に発表した「未来の国際投資政策(Future European international investment policy)」という題名の決議では「投資」、「外国投資家」の概念と範囲を明確に定義し、国家安全、環境、保健、労働者および消費者の権利、文化多様性の領域で政府統制権を保護することを要求した。ヨーロッパ執行委員会は、2012年6月にISD規定案も提出した。

こうした論争に影響を与えるため、国際的な大手ローファームのHogan Lovells、Herbert Smith Freehills、Baker McKenzieは、EUの政策マンを招請して超国籍企業との非公式の論争を行った。ここにはISDを提起したことがあるDeutsche Bankとエネルギー企業のShellも参加した。

そして有名な仲裁者で米国のローファーム、Shearman&Sterlingの弁護士のEmmanuel Gaillardは、EU会員国間のBITを段階的に廃止しようとするヨーロッパ執行委員会の提案について、「惨めな経済的な結果」を招くと憂慮した。彼は最低3件のEU会員国間のBIT訴訟を仲裁してきた事実から、なぜ彼がこの協定を維持しようとしているのかが分かる。

オランダのローファーム、De Brauwは、ヨーロッパ議会の議員に対して既存のBITと高い投資家保護基準を維持すべきであり、特にISDは維持するべきだという内容の書簡を送った。投資保護を労働や環境基準と関連させるなという内容も含まれていた。De Brauwは、オランダ・スロバキアのBITを利用して、スロバキア政府に1億4200万ドルを要求したオランダの保険会社Eurekoを代理している。スロバキア政府は以前、行政府の医療民営化政策をひっくり返し、保険者に非営利目的の基盤で運営するよう要求したことによる。

回転ドア、政府から出たり入ったり

NAFTA協定の交渉家とコンサルタントの何人かは、投資仲裁産業では誰もが知る名前になった。FreshfieldsのJan PaulssonとKing&SpaldingのGuillermo Alvarez Aguilarはメキシコ政府のコンサルタントをし、Daniel Priceは米政府側で交渉した。NAFTAが署名された瞬間、これらの弁護士は企業に対し、政府に訴訟をしろとけしかけた。Jan PaulssonとDaniel Priceは有名な仲裁者でもあり、次回でも議論されるだろう。

仲裁回転ドアに属する多くの人、特に米国では政府と国際機構にバックを持っている。以前は米政府の内部にいて、現在ではローファームのWell, Gotshal&Mangesで働くTheodore Posnerは、そんな人たちが「政府の公務員が交渉する方法と問題を分析する方法を知っている」と話した。

フランスのローファーム、SalansのBarton Legumは、2000年から2004年に米国の国務省で投資家の紛争から米国を防御する代表諮問委員として、新しい投資協定を発展させる支援をした。現在はその時に得た洞察力を利用して金を稼いでいる。NAFTA協定を使い、最低5億2千万ドルの賠償金を米政府に要求したカナダの製薬会社Apotexを代理している。

Legumは有名な仲裁者でもある。米国のローファーム、Greenberg TraurigのRegina Vargoは、30年以上、米政府でCAFTA-DR(米国と中米6か国間の自由貿易協定)のようなFTAと、投資協定での主な交渉家として活動した。 CAFTA-DRの下で初めて提起されたISDで、Vargoは米国の鉄道投資家の代理としてグアテマラ政府から約1200万ドルの賠償金を受け取った。ある同僚によれば、Vargoよりも「CAFTAに密接で、特別な人はいない」と言う。

Anna Joubin-Bretは15年間、開発途上国に投資協定問題についてコンサルティングし、国連貿易開発会議(UNCTAD)にいた。開発途上国を交渉家で埋まった部屋に誘い、結局、数十の投資協定調印国にさせたUNCTADの悪名高い署名パーティーの代表組織者だった。現在は米国のローファームFoley Hoagで政府側を代理して協定草案についてコンサルティングをしている。

上位20位の投資仲裁専門ローファーム

この報告書は、2011年に担当したISD件数について、上位20位のローファームを選定した。ローファームが自ら提供した情報で付けた順位だ。これらの情報は外部的に確認できず、情報を提供しないローファームもあるため、このリストにない国際的な巨大ローファームも投資仲裁産業で、重要な行為者があるかもしれないということを見過ごしてはいけない。

3位になった米国のローファーム、King&Spaldindの履歴を見よう。このローファームには、ワシントン、ニューヨーク、パリ、ロンドン、シンガポールといった主要投資仲裁中心地で活動する50人の仲裁専門弁護士がいる。このローファームの弁護士の何人かは仲裁者としてICC(国際商業裁判所)と仲裁機構にいる。ICSID(国際投資紛争解決センター)の最高重役だったMargrete Stevensは、17年ICSIDに在籍した後、このローファームに移った。前述のように、Guillermo Aguilar-AlvarezはNAFTA交渉ではメキシコ政府のために法的諮問をしていた。このローファームが2012年3月の時点でウェブサイトに公開した37件 のISDのうち35件が投資家を代理した事件だ。

このローファームの成功の鍵は、アルゼンチン政府に対するICSID訴訟での勝利だった。このローファームは2012年2月まで、アルゼンチン政府に対して提起された49件のICSID訴訟のうち、最低15件の訴訟で投資家を代理した。このローファームで国際仲裁グループの共同代表であるDoak Bishopは「アルゼンチンのペソ危機で発生した訴訟について諮問を求める弁護士」と認められている人だ。 彼はアジュリ(Azurix)がアルゼンチンにICSIDを提起した訴訟でアジュリを代理し、1億8500万ドルの賠償金の判定を受け取った。

アジュリは米国のエンロン(Enron)から分社した水企業で、ブエノスアイレスで民営化された上下水システムを買収したが、2000年に深刻な藻類の発生などで、水質に問題が起きた。これについて地方政府が責任を問うたことに対し、ISDを提起した。このローファームの二番目の特徴は、巨大ガス、精油会社のために活動したことだ。90年代中盤に米国の巨大精油会社テキサコ(Texaco)の訴訟を担当し始め、現在はテキサコを買収したシェブロン(Chevron)を代理している。 シェブロンはアマゾンの熱帯雨林で油田掘削による汚染を除去するため180億ドルを支払えというエクアドル裁判所の命令を避けるためにISDを提起した。

乱暴に言えば、投資協定文を作った人とISDの判定をする人と訴訟を代理する人が同じ人だったり、互いに友人になって投資家の利益を保護するシステムを拡大し、そのシステムを利用してISD件数を増やしているのだ。

ローファーム
2011年
ISD数
2011年
収入
2011年
パートナー弁護士
収益
政府側 /
投資者側
有名な仲裁者
備考
Freshfields Bruckhaus
Deringer
(英国)
71 $1.82 billion $2.07 million 双方。主に投資家を代理 Jan Paulsson,
Noah Rubins,
Lucy Reed,
Nigel Blackaby
10年間支配的な投資仲裁専門ローファーム
White & Case
(米国)
32 $1.33 billion $1.47 million 双方
恐らく政府側活動が多い
Carolyn Lamm, Charles Brower
(2005年まで),
Horacio Grigera
Naóon (2004年まで)
2001年金融危機を迎えたアルゼンチンにイタリア債権所有者を代理して数十億ドルISD提起
King & Spalding
(米国)
27$781
million
$1.93
million
ほとんど投資家のために活動 Doak Bishop,
Guillermo
Aguilar-
Alvarez,
Eric Schwartz,
John Savage
米国石油会社Chevronを代理してエクアドルにISD提起
米国企業Rencoを代理しペルーに8億ドルを要求してISD提起
Curtis
Mallet-Prevost, Colt & Mosle
(米国)
20$165
million
$1.54
million
政府
ベネズエラ、カザフスタン、トルクメニスタンなどの政府を代理、2001〜2012年に収益が50%増加
Sidley
Austin
(米国)
18 $1.41
million
$1.60
million
双方
恐らく企業側の活動が多い
Stanimir
Alexandrow,
Daniel Price
(until 2011)
ウルグアイにISDを提起したフィリップ・モリスを代理
Arnold
& Porter
(米国)
17 $639
million
$1.40
million
双方
恐らく政府側活動が多い
Jean Kalicki,
Whitney
Debevoise
カナダにISDを提起した米国製紙会社Abitibi-Bowaterを代理。この会社の工場閉鎖に、カナダ地方政府が伐採権と採取権を撤回したことにISDを提起。その結果カナダはNAFTAでのISD中でこれまで最高の賠償金の1億3千万ドルを支払った。
Crowell
& Moring
(米国)
13 $329
million
$845
thousand
ほとんど投資家のために活動
エルサルバドルが金採堀権を認めず、エルサルバドルGDPの約1%を要求して訴訟したカナダの鉱山会社Pacific Rimを代理
K&L Gates
(米国)
13 $1.06
billion
$890
thousand
双方 Sabine Konradバッテンフォールとドイツとの訴訟でSabine Konradがドイツ政府諮問
Shearman
& Sterling
(米国)
12$750
million
$1.56
million
双方
ほとんどの訴訟で投資家の諮問
Emmanuel
Gaillard,
Philippe
Pinsolle,
Fernando
Mantilla-
Serrano,
Yas Banifatemi
仲裁者Emmanuel Gaillardはこのローファームの最高位者で、投資法と仲裁に対する学問的、政治的論争に絶えず介入
DLA Piper
(米国)
11$2.24
billion
$1.22
million
双方 Pedro
Martinez-Fraga
世界2位ローファーム。ベネズエラを相手にICSIDに提起された何人のISDで投資家を代理
Chadbourne & Parke
(米国)
$306
million
$1.31
million
投資家 不透明な投資仲裁の代表的な例。2011年に11件のISDに介入したがウェブサイトに何も公開していない
Cleary
Gottlieb
Steen &
Hamilton
(米国)
$1.12
million
$2.69
million
双方 Telecom Italiaを代理。Telecom Italiaの少ない投資と欠陥サービスにより、ボリビアがEntelを国有化したためISD提起。その結果ボリビアは1億ドルを支払った
Appleton
& Associates
(カナダ)
$
million
$
million
投資家 NAFTA発効後、初めてカナダに対するISDを提起。精油会社Ethylとカナダの訴訟で1300万ドルの賠償判定を受ける。このローファームは今も定期的にカナダ政府に訴訟を提起
Foley
Hoag
(米国)
$149
million
$1
million
政府 Mark Clodfelter 主に政府のために活動。数人の弁護士が政府にバックグラウンドを持つ
Latham &
Watkins
(米国)
$2.15
billion
$2.27
million
双方 Robert Volterra
(2011年まで)
世界4位ローファーム。アラブの春の後、エジプトの裁判所がムバラク政権下で取得した繊維工場を返還しろとIndoramaに命令したことにISDを提起。
Indoramaを代理
Hogan
Lovells
(米国/英国)
$1.66
billion
$1.16
million
双方
恐らく政府側活動が多い
インドネシアの裁判所がボルネオで英国のChurchillの炭鉱業許可が偽造されたと判決。許可を取り消されたChurchillが20億ドルを要求しISDを提起。Churchillを代理
Clyde & Co
(英国)
$460
million
$915
thousand
双方
恐らく企業側の活動が多い
リビアのカダフィ政権退陣後に初めてリビアで開業した外国ローファーム
Norton Rose
(英国)
$1.32
billion
$620
thousand
投資家のために活動する傾向 Yves Fortier
(2011年まで)
MichaelLee
(2001年まで)
カナダへのISDで投資家を代理してきたカナダのローファームOgilvy Renaultと2011年に合併。
Yves Fortierは2011年まで50年以上このローファームで働く。
Salans
(フランス)
$260
million
$725
thousand
双方
恐らく投資家側の活動が多い
Bart Legum,
Jeffrey Hertzfeld,
Hamid Gharavi
(2008年まで)
Barton Legumは米政府弁護士でいくつかのNAFTA紛争で米国を防御。現在は米国に訴訟をしたカナダ製薬会社Apotexを代理
Debevoise
& Plimpton
(米国)
$675
million
$2.07
million
ほぼ100%投資家を代理 Donald Francis
Donovan
最大の賠償金判定を受けたICSID紛争で投資家を代理。米国精油会社Occidental Petroleumが環境汚染によりアマゾンでオイル生産を中断させられたことでエクアドルに訴訟をして、賠償金17億6千万ドルの判決を勝ち取る

前の記事: ISD条項に関する韓国情報活動家の記事 「不当なことで利益を得る(1)」

原文(レディアン)

この翻訳物の著作権は、原サイトの規定により情報共有ライセンスバージョン2:営利利用不可に従います。

2013年2月27日水曜日

ISD条項に関する韓国情報活動家の記事1

日本でもTPPがらみでISDの問題が注目されるようになって、ISDについて知られるようになってきた。韓国では、韓米FTAでISDが問題になって、今でも議論は続いているのだけれど、Redianという韓国のオンラインニュースサイトに情報共有連帯という市民団体の人がISDに関する記事を書いていて、面白かったのでざっと翻訳してみた。

内容的には2012年11月にヨーロッパのCorporate Europe Observatory and the Transnational InstituteというNGOが作成した"Profiting from injustice"という報告書がベースで、これまで韓米FTAについて提起されてきた問題を加えて再構成したものといえる。とにかく、こういうのを読むと、日本でもTPP参加の議論で大きな焦点になっているISD条項は、相当問題が多いなと思わざるを得ない。もっとも、韓米FTAのようなグローバル協定に反対する立場からの解説なので、問題が多いということを言いたいわけなんだろうし、ぼくもTPPに反対する立場から面白いと思って紹介する次第。

なお、この記事は連載の1回目で、この後もISDに関する数本の記事が続いている。後続の記事についても翻訳して紹介したいと思う。

不当なことで利益を得る(1)

災難の怪物ISDの実体について

[情報共有と知的財産権]さらに多くの戦争、さらに多くの危機、さらに多くのISD

Byクォン・ミラン/情報共有連帯IPLeft/2013年1月23日、6:16 PM

敗訴しないことを望んだ空しい期待

昨年、ローンスターは結局ISD(投資家国家訴訟)を提起した。韓米FTAかっぱらい批准ほどではなくても、私は恐くてどきどきしながら韓国政府が敗訴しないことを見守っていた。

そして最近では医薬品特許をめぐりISDが提起された。昨年11月、超国籍製薬会社のリリーはカナダの特許適格性(patentability)の基準により、自社の注意欠如多動性障害(ADHD)治療剤のストラテラ(Strattera)の使用方法特許(methodof use patent)が無効と決定されたことで、最低1億カナダドル(CDN)にあたる損害を受けたと主張して、NAFTA協定11章(投資)により、カナダ政府に仲裁意向書を通知した。

リリーは1996年1月にストラテラの特許を申請し、2016年1月に満了する予定だった。リリーが獲得した特許(735 patent)は化合物アトモキセチンを成人と子供の注意欠如多動性障害(ADHD)の治療のために使用(use)することについてのものだ。そして2004年12月にカナダで販売許可を受け、商業的に成功したという。

ジェネリック(複製薬)を作る製薬メーカーのノボファーム(Novopharm)が特許無効訴訟を提起し、これにより2010年9月に連邦裁判所は無益(inutility)等の理由で特許無効と判決した。リリーは連邦裁判所の決定に控訴し、その結果、2011年7月に連邦抗訴法院はこれを棄却した。リリーは大法院に上告申請したが2011年12月に棄却された。

WTO加入国に対し、知的財産権保護の最低の基準を強制するトリップス(TRIPS)協定は、特許適格性の基準として新規性(new)、進歩性(inventive step)、産業適用可能性(capable of industrial application)を要求する。

つまり、既存のものとは違う新し、さらに良い発明でなければならず、その発明を発明者一人が利用するのではなく、産業的に利用する可能性があれば特許権を与えられる。

だがこの三つ基準の概念について、トリップス協定は具体的に定義していないため、国家ごとに解釈が違う。これはトリップス協定が認める数少ない柔軟性(flexibility)あるいは主権の領域の一つだ。

だがリリーは、カナダのすべての司法的手続きを取って特許無効判決を受けたが、これこそNAFTA協定11章(投資)の収用条項、最低基準待遇条項、内国民待遇条項違反だと主張した。リリーはカナダ裁判所がストラテラの特許を無効化したのは直接受け入れに該当して、これによってストラテラを製造、販売する排他的権利に関する価値(value)を破壊する効果をあげたとし、これを間接収用と見た。

実際、投資条項は投資家の解釈次第で司法権を侵害する。そして保健、環境、労働などの目的による国家の政策や制度もISDを避けられない。

だがNAFTA協定はISDを認めているので、もう元に戻すことはできない。私はカナダ政府が敗訴しないことを願っていた。ところが昨年11月に発表された研究報告書「不当なことで利益を得る-ローファーム、仲裁者、金融業者が投資仲裁ブームを煽る方法(Profiting from injustice. How law firms、arbitrators and financiers are fueling an investment arbitration boom)」を読んで、私の期待が空しいことこの上ないことを知った。


民主弁護士会のISD関連記者会見資料写真(写真は民主弁護士会)

「投資仲裁産業(arbitration industry)」の成長

2011年末までにISDを含む協定は3000本を越える。主に二国間投資協定(BIT)で、FTAに含まれる投資部門、そしてエネルギー憲章条約(Energy Charter Treaty)のような多国間協定がある。

世界銀行傘下にICSID(国際投資紛争解決センター)ができてから30年経った1996年まで、38件のISD提訴しかなかった。だが90年代後半から訴訟が急速に増えた。2011年末までにわかっているISDだけで450件あった。主に南半球の政府を対象にするものだ。だがほとんどの訴訟が秘密裏に行われたため、実際の訴訟件数ははるかに多いだろう。

2011年にアメリカの弁護士雑誌(American Lawyer magazine)の報告によれば、最低1億ドルになる非公開の投資仲裁訴訟は151件だった。

一般的に投資仲裁手続きは、投資家が政府に仲裁意向書を通知すると、投資家と政府は仲裁裁判所を選び、それぞれ1人ずつの仲裁者を選んで共に議長を選択し、仲裁判定部が構成される。

秘密裏に本訴訟が進められ、3人の仲裁者が被害の類型とその規模、賠償金を決める。政府が賠償金の支払いを拒否すれば、政府の財産を差し押さえることができる。

一番よく選ばれる仲裁裁判所はワシントンにある世界銀行傘下の国際投資紛争解決センター(ICSID)、二番目は国連国際貿易法委員会(UNCITRAL)だ。この他にハーグにある常設仲裁裁判所(PCA)、ロンドン国際仲裁裁判所(LCIA)があり、パリの国際商業裁判所(ICC)とストックホルム商業裁判所(SCC)はビジネス機構での投資紛争を扱う。これらは「投資紛争産業」になった。

賠償金額だけでなく、仲裁者、証人、専門家、弁護士に支払う法務、行政費用そのものがとても高い。OECDは情報が伝えられている事件の法務費用が平均800万ドルを越え、場合によっては3000万ドルを越える場合もあることを確認した。

フィリピン政府はドイツ航空会社のFraportが提起した2つのISDを防御するために5800万ドルを使った。これは12500人の教師1年分の賃金にあたり、380万人の子供に結核、ジフテリア、ポリオなどの予防ワクチン接種費用で、2つの空港を作れる金額だ。

ある仲裁産業内部の者は、法務費用の80%以上を諮問に使っていると推測する。仲裁弁護士は勝訴せず、有利な合意を引き出しただけでも相当な手数料を受け取る。上位20の仲裁ローファームのパートナー弁護士は、時間当り1000ドル受け取る。

米国のローファームKing&Spaldingは、ある訴訟で依頼人に賠償金1億3300万ドルの80%以上を要求したと伝えられる。仲裁者もまた一日の手当て3000ドルに加え、移動、居住費を受け取る。訴訟で負けた側がいつも相手側の法務費用を払うわけではない。両者に裁判、行政費用をそれぞれ支払えという仲裁判定が行われるケースが一番多い。この話は政府が訴訟で勝っても納税者は金を払わなければならないということだ。

Plasma Consortiumのブルガリアに対する訴訟で、ブルガリアは結局詐欺だという判決になったこの訴訟を防御するために約1300万ドルの法務費用を使った。だが仲裁判定部はPlasma Consortiumにブルガリアの法務費用のうち700万ドルだけを支払うよう命令した(ブルガリアはこれさえ全額を回収できなかった)。当時、ブルガリアは看護師の不足による保健医療危機を解決しようと努力していた。その金があれば、1796人以上の看護師の賃金を支払うことができた。

しかし財政的な負担は始まりでしかない。こうした訴訟ブームから利益を得る法的産業がある。この報告書は「投資仲裁産業」の主な行為者であるローファーム(仲裁弁護士)、仲裁者、金融業者(資本家)の行為とネットワークの実状を見せ、これにより国際投資体制がいかに維持され、拡大しているかを見せる。

投資仲裁産業は、単なる国際投資法の受動的な受恵者ではなく、とても積極的な行為者だ。彼らは超国籍企業と強い個人的、商業的なきずなを持ち、国際投資体制を活発に防御する学界で顕著な役割を果たす。

政府を訴訟にかけるすべての機会を追うだけでなく、国際投資体制のいかなる改正にも反対する成功的かつ強力なキャンペーンを行なっている。政府(あるいは納税者)が敗訴しなくても損害で、敗訴すればなおさら損害だ。

地球的、国家的危機はISDの機会

国連は、ISDが財政、経済危機に対処する政府の能力を深刻に阻害することを認めた(UNCTAD. 2011)。アルゼンチンが2001年に経済危機に対処するための経済改革プログラムを行ったところ、40件以上の訴訟を受けた。2008年末までに12件のISDについての判定を受けた結果、アルゼンチンが支払う賠償金は11億5千万ドルにのぼった(Luke Eric Peterson. 2008)。これはアルゼンチンの15万人の教師、または10万人の医師の年間平均賃金にあたる。

ギリシャが財政危機を迎えると、仲裁弁護士は企業にISDをけしかけた。ドイツのローファーム、Lutherは、依頼人に借金を返すことを敬遠する国家では国際投資協定を基盤として訴訟をすることができると話した。そして「ギリシャの淫らな財政的処身(Greese's grubby financial behaviour)」は、気分を害した投資家に賠償金を要求する確実な理由を提供すると提案した。

米国のローファーム、K&L Gatesは2011年10月依頼人のための要約報告書でアルゼンチンに対する仲裁訴訟の一つを分析し、次のように書いた。投資協定仲裁は、「政府の債務不履行による投資損失の被害を回復させられる」、「現在の財政危機が世界的になれば、債務機関による構造調整により損害を受ける投資家に希望を提供しなければならない」。このローファームはギリシャを投資協定により、投資家の投資を保護できるかどうかを調べなければならない国家だと認識している。

また、ローファームは依頼人が政府との負債構造調整交渉で「交渉の道具」としてISDを利用し、政府を威嚇するべきだと提案した。米国のローファームMilbank、オランダのローファームDe Brauw、英国のローファームLinklatersはすべて同様の方針を持っている。2011年にMilbankのパートナー弁護士の収益は250万ドルまで上がったが、ギリシャの25歳以下の労働者の一か月の最低賃金は510ユーロ(660ドル)だった。_ 2012年3月にEUとギリシャに金を貸した銀行、ファンド、保険者は、長い交渉の末にほとんどが償還期間を緩和することに決めた。しかしすぐいくつかのローファームが債務スワップを受け入れることを拒否し、融資機関の代わりに数百万ドルの損害賠償を要求すると発表した。

ギリシャの負債危機に対する訴訟は、非常に収益性が高い投資仲裁ビジネスの一例でしかない。2011年にリビアに内戦が発生した時、ローファームは超国籍コミュニティに対し、リビアでの彼らの利益を守る方法についての広告を出した。

英国のローファームFreshfieldsは「設備と個人の安全と保安に関して」リビア政府が約束を守れなかったことについての金銭的補償を請求するために投資協定を利用することができると提案した。米国のローファームKing&Spaldingも、2011年5月に「リビアの危機:石油会社とガス会社に有効な法的選択肢は何か(Crisis in Libya:What legal options are available tooil and gas companies?)」というの題名の『依頼人警報(client alert)』を発行し、リビアの石油、ガス会社にISDへの関心を高めた。

保健、社会安全、環境、労働政策は高価なビジネスチャンス

仲裁弁護士にとって、公衆保健、社会安全、環境、人権を保護する政府の規制は収益性の高いビジネス機会だった。ドイツのローファームLutherは「助けて。収用される!(help、I am being expropreated!)」というの題名のブローシャーで、投資仲裁の機会として新しい税金、新しく導入された環境法、政府規制により下げされた価格などのシナリオを広報した。

ハンガリーが2011年に莫大な公的負債を減らすために収益性が高い企業に税金を導入すると、米国のローファームK&L Gatesは企業が選択できる投資仲裁を提案した。インドが2012年3月に抗ガン剤のネクサバールの薬価があまりにも高いため、強制実施を発動すると、米国のローファームWhite&Caseは特許権を持つ超国籍企業に「BIT下で安息所を見つけるだろう」といった。

スウェーデンのエネルギー企業、バッテンフォール(Vattenfall)がドイツ政府に訴訟をしたのも同じだ。2012年の福島原発事故の後、ドイツ政府が原子力エネルギーを段階的に廃止することに決めると、37億ユーロ(46億ドル)を要求してISDを提起した。

ドイツのアンゲラ・メルケル政府は2010年に原発の段階的廃棄方針を変更し、古い原発の運転期間を8〜14年延長した。バッテンフォールはドイツ政府の当時の決定を見た後、ドイツ、ハンブルグ付近の原発に7億ユーロを投資した。

しかし、メルケル総理は2011年3月、日本で福島原発事態が起きると既存の政策をひっくり返し、二つの原発を含む8つの原発を直ちに閉鎖し、2022年までにドイツ内の原発をすべて閉鎖することにした。

これに対し、バッテンフォールは自分たちの投資がすべて吹き飛んだと主張してISDを提起したのだ。バッテンフォールは、エネルギー憲章条約(Energy Charter Treaty)の「国家は投資家に対し公正で公平な待遇をしなければならない」という条項を今回の原発訴訟の根拠とした。これは、韓米FTAにも含まれている。

バッテンフォールは2009年にもハンブルグ・モーアブルクの石炭火力発電所に対するドイツ政府の環境規制に対し、14億ユーロ(19億ドル)の賠償金を要求し、エネルギー憲章条約を根拠としてICSIDに提起し、2010年にドイツ政府の賠償を受け取ったことがある。

オーストラリア政府は世界保健機構(WHO)の勧告を受け入れ、タバコの箱にブランドごとにデザイン、色、ロゴを表記せず、薄緑の箱(generic olive green packets)に製造会社・商標名を小さな文字で表記し、口腔癌、視力を失った眼球のように喫煙関連の病気の写真と共に警告の文句を大きな文字で表記させる法律を制定した。


オーストラリア議会の禁煙法決定で推進されたタバコの外箱の模型。これにタバコ会社は訴訟で対応した

2011年11月にこの法案が通過すると、香港のフィリップ・モリス・アジアは香港オーストラリア投資協定(BIT)を通じてISDを提起した。そして2011年12月にはフィリップ・モリス、ブリティッシュアメリカ・タバコ(BAT)、ジャパン・タバコ、インペリアル・タバコの4社が、オーストラリア政府の措置は知的財産権(商標権)を侵害し、違憲の可能性があるとし、オーストラリア高等法院に訴訟を提起した。2012年8月15日、オーストラリア大法院は合憲と判決した。だがISDは進行中だ。フィリップ・モリスはカナダのタバコ規制政策に対してISDを提起すると威嚇し、カナダのタバコ規制政策を無力化させている。

南アフリカ共和国の長い間の人種差別制度による不平等を是正するために、2004年1月、大統領は黒人経済育成法(Black Economic empowerment Act)に署名した。黒人が経済活動に参加する機会と恩恵を保障するため、企業に対し黒人管理者の割合、黒人の所有限度、黒人労働者の割合などを基準として点数を付け、政府の入札や銀行融資を優先的に支援する制度を用意した。

これに対して2007年にイタリアの鉱山会社Piero Forestiをはじめ、多くの企業が南ア・イタリアBIT、南ア・ルクセンブルクBITを通じ、ISDを提起した。南ア共和国の政府がこれらの企業に新しいライセンスを与えることで合意した後、2010年8月に仲裁が終了した。

このように、ローファームは国家に対して訴訟をするあらゆる機会を探す。企業に対し、訴訟の機会についての情報を絶えず知らせることは、仲裁弁護士にとっては一番基本的な仕事だ。戦争や経済危機のような地球的、国家的な危機状況は、仲裁弁護士が利益をあげる機会になる。

そして、保健、環境、労働政策さえISDを避けられないのではなく、むしろこうした公共政策が仲裁弁護士にとってはIDSの最優先の対象だ。だが投資家がISDを提起した時、勝算があるか、少なくともISDを提起することが利益につながる構造があるからこそ、「投資仲裁産業」がこのように成長できたのだろう。なぜ可能なのだろうか?

原文(レディアン)

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2013年1月23日水曜日

積層セラミック・コンデンサ

何気なく古いパソコンから外した安物のサウンドカードを眺めていて気がついた。
ふとそれなりのオーディオ回路なら普通に使われているようなフィルムコンデンサーがない。どうやらコンデンサーはすべてチップコンデンサーを使っているらしい。何も表記がないのでわからないけれど、おそらく積層セラミックコンデンサーなのだろう。
オーディオ回路にセラミックコンデンサー?
ちょっとショックだった。いくら安物のサウンドカードとはいえ、オーディオ回路にセラミックコンデンサーとは。

実は以前、音質は二の次、とにかくブーストという程度のちょっとしたマイク用プリアンプのカップリングに積層セラミックを使ったことがあって、「結構使えるじゃん」とか思ったことがある。それでもオーディオ回路にはフィルムコンデンサーというのは常識で、セラミックなんて使ったらキンキン変な音になるもんだと思い込んでいたのだけれど、パソコンのサウンドカード程度のクォリティなら積層セラミックでも何とかなるということか。

調べてみると、最近の積層セラミックはそんなに特性は悪くないらしい。うるさいことを言わなければ、オーディオ回路でも使えないわけではないらしい。
ぼくはソレっぽい音が鳴ってれば満足してしまうので、フィルムコンデンサがなければ積層セラミックでもいいような気がしてきた。ただ、セラミックコンデンサの欠点は、バラツキが大きいことで、昔、「セラミックコンデンサの容量なんて2倍ぐらい違うこともあるよ」なんて話を聞いた覚えがある。音楽を聞く場合だと、左右のチャンネルのコンデンサーの容量があまり違うと音質や音量、特性のバランスの違いにつながってしまう。これはあまり気持ちのいいものではない。

部品箱の中の積層セラミックの袋を見ると、容量の誤差は+80%、-20%と表示されているのだが、本当にそんなに違うのだろうかと思って、容量を測ってみた。もっとも、容量計なんてしゃれたものは持っていないので、NE555で発振器を組んで、1000円のデジタルテスターの周波数計レンジで周波数を測って、そこから容量を逆算してみた。
0.1uF表示の積層セラミック10本ほどを測ってみたところ、意外にも容量のバラツキは小さく、0.99から1.1ぐらいまでだった。これをバラツキが大きいと言えば大きいんだろうけど、おそらく、もっとたくさん測れば、中には+80%ぐらいのものもあるんだろうね。
もっとも温度による容量変化が大きいのは教科書通りで、指で温めるだけで10%ぐらいは簡単に変動する。夏と冬で音質が変わるアンプなんて、オーディオマニアにはとても許せないだろうけど、ぼくは左右のチャンネルが同じように変わるんだったら10%ぐらいは許容範囲内だ。

いつか、フィルムコンデンサとセラミックコンデンサを差し替えて、どれぐらい影響があるものか実験してみようかなと思う。

2013年1月7日月曜日

「靖国放火犯」の本国送還

韓国の日本大使館に火炎瓶を投げた中国人が、靖国神社の門に放火したという容疑で、日本側が日韓犯罪人引渡協定により身柄の引渡しを要求していた件で、韓国政府はこれを拒否し、容疑者を中国に帰国させた。日本政府は 「『(日韓犯罪人引き渡し条約を)事実上まったく無視した』と批判」したという(日経の記事)。「事実上」という単語がついているあたりが面白い所で、「まったく無視した」と断言することはできないということだろうか。
報道によれば日本政府は「今後、『政治犯』の定義などの見解について、韓国側に明確な回答を求める」という。すると日本は韓国での裁判所の決定書も検討せずに「事実上まったく無視した」と非難しているということになり、それはそれで問題がありそうな気がする。ただし、この裁判については日本政府関係者や報道関係者は綿密にフォローしていたようだけど。

このあたりが気になったのでいろいろ調べてみたのだが「靖国放火」が政治的犯罪かどうか以上に、「靖国放火犯」の存在そのものが政治的な存在になってしまっている。いや、そもそも「靖国」という存在が政治的な存在なので、必然的にそれを取り巻くすべての事件は政治的な事件になってしまう。
しかし、今回の引渡し拒否については特に、日本が放火容疑者の劉さんの引渡しを要求したあと、中国が国を挙げて劉さんのサポートにまわったという点で国際的な政治問題になってしまった。今回の裁判では中国政府が韓国有数のローファームと契約して韓国最高の弁護士を何人も雇い、劉さんの弁護をさせたという。日本政府は、日本大使館放火事件で逮捕された容疑者が靖国放火を自供して以来、何度も韓国政府に容疑者の身柄引渡しを要求してきたという。そして中国政府は、彼は政治犯であり、中国に送還するようにと求めたという。朝鮮日報のコラムによれば、中国の公安関係者が日本の要求に応じれば深刻な外交問題になると脅しをかけたという。ちなみにこのコラムは送還決定前に書かれたものだが「弁護人は送還が決定されると信じている」と書いている。
いずれにしろ韓国外交部は、日本と中国の板挟みになって、どっちに引き渡しても反対から非難され、外交的に苦境に陥ることになってしまった。

韓国政府は、政府としての判断をせず、司法に判断を丸投げして司法判断に従う、という手を使ったわけだが、韓国の報道によれば、韓国の裁判所は、判例もない裁判で苦労したそうだ。豪華弁護団がついていなければ、引渡しの決定が出ていたかもしれない。とにかく裁判所は海外の事例や学説などを検討して、「絶対的政治犯罪」、「相対的政治犯罪」のうち、今回の件は「相対 的政治犯罪」にあたるとし、これが一般犯罪なのか、政治犯罪なのかの判断の基準として、(1)犯行の動機が個人的か政治的か、(2)犯行の目的がその国の 政策を変化させようとするものか、(3)犯行の対象が象徴するものの政治性、(4)犯行と政治的目的に有機的関係があるか、(5)犯行の法的·事実的性 格、(6)犯行の手段、あるいは方法の残虐性の六項目を設定、これについて検討した結果、「政治犯罪にあたる」という結果を出したという。
なお、弁護団は劉さんが日本に引き渡された場合、政治的な差別を受ける可能性があるという主張をしていたが、これについては政治犯罪の判断基準には含まれ なかった。

ぼくは法律には疎いので、日韓のどちらの主張が正しいのか判断することはできないのだけど、ネットなどで見かける「放火やテロを奨励するような内容」(産経)といった雑な議論ではない。
また差別の可能性や政治的裁判の可能性を判断基準にすると、日本の司法が信頼できないという意味になって、外交上の大問題に発展しかねないからなのだろうが、日本では天皇だの靖国だのがからんだ裁判は被告にとって相当不利になるのは明らか。日本政府は「一宗教施設への単なる放火犯であって政治犯ではない」と主張しているが、反靖国運動などへの超法規的な弾圧を考えれば、靖国放火犯が「単なる放火犯」として扱われるとは思えない。これは中国政府としての立場でも同じで、「単なる放火犯」ではないと見ているからこそ国家的にバックアップしているわけだ。

ところで韓国の裁判所は、劉・元受刑者の認識と見解は大韓民国憲法の理念や国際機関、大多数の文明国が目指す普遍的価値と一致していると判断したという。これはいかにも韓国的だなと思う。ぼくの主観的な印象なのだが韓国の裁判では、大義や法の理念といったものが重視され、情状酌量の余地も日本より広いように思う。悪く言えば、最後まで頑張って世論を味方に付ければ勝ち、みたいなところがある。おかげで法による救済が困難なケースでも救済されるという肯定的な結果になることもあり、逆に法で処罰されるべきケースでもうまいこと逃げてしまうという否定的な結果になることもある。韓国では、有能な弁護士を雇える金持ちは裁判にかけられても無罪になり、弁護士が雇えない貧乏人は有罪になるという「有銭無罪・無銭有罪」という言葉があるほどだ。
今回の引渡し拒否の決定も中国政府のバックアップを得たおかげで、「有銭無罪」になったケースだと言えるのではないかと思う。

世界のそれぞれの国にはそれぞれの制度があり、正義がある。急速なグローバル化は、そんなそれぞれの国の事情を平準化しようとしているのだが、それはそれでまた問題の火種になる。最近話題のTPPのISDS条項も、国によって異なる制度の問題を解消しようとする試みの一つで、日本でもこれを問題視する人は少なくない。同時に、グローバル化は何らかの共通の価値観を必要としているのも事実で、韓国の中でも今回の件で容疑者の引渡しを拒否したことは国際条約の理念から見て正しくないという意見もある。実際、韓国政府としてはどうやら容疑者を引渡したかったように見受けられるが、その場合に予想される対中国関係の悪化や国内的な反発で悩んだようだ。
ちなみに、欧米の反応を調べてみたが、欧米人が書いたと見られる英文のブログでは「日本に引き渡すべきだった」という文章が数件見つかったものの、主流メディアはこの件については単に事実を伝えているだけだ。どうやら日本政府が考えているほど「(日韓犯罪人引き渡し条約を)事実上まったく無視した」というようなものでもなければ、韓国政府が望んでいるように純粋な司法判断として処理できるようなものでもないということではないと解釈することもでき、「また日韓がバカみたいな綱引きをやってるし…」という無関心の現れなのかもしれない。

結局、この種の問題を解決する方法は、相互の理解と信頼でしかない。そして相互の理解と信頼がなければ、「一宗教施設への単なる放火」が国際的な外交問題になってしまう。そして韓国も中国も、少なくとも靖国や従軍慰安婦といった問題に関しては、全く日本政府の主張について理解も信頼もしていない。そして日本は韓国や中国の態度に不信を募らせるばかりだ。
こうした日中韓の三か国の不信と感情的なギャップは、戦争責任があり、アジアで最も進んだ民主的国家だと自慢する日本が率先して埋める努力をしなければ、永遠に狭まることはないだろう。中国や韓国を「遅れた国家」だと考えている人も少なくないようだが、それほど誇り高い日本が中国や韓国と同じレベルで「お前が悪い」、「そっちこそ何だ」といがみあっているようでは、まあ、何ともみっともない話である。今の段階で、韓国や中国が納得できるような努力をすることができるのは、安倍首相だけなのだけどねえ…